
利益が出る歯科医院の特徴は?年商帯別に自院で作る人件費率・自費率・チェア生産性の月次ベンチマーク
利益が出る歯科医院の本質は売上規模ではなく、損益差額率を維持しながらチェア・人員・患者稼働を月次で再現できることにあります。第25回医療経済実態調査の給与費率・損益差額率を開設形態別に読み解き、チェア当たり月商と自費率・再来率を組み合わせた月次ベンチマークの作り方と、悪化時の改善優先順位まで具体化します。
- ◆利益が出る医院は売上規模より、損益差額率を維持しながらチェア・人員・患者稼働を月次再現できる点で定義する
- ◆第25回医療経済実態調査では全体の給与費率41.3%・損益差額率15.3%。個人立と医療法人立は性質が異なるため分けて読む
- ◆自費率は公的統計の「その他の診療収益」と別物。院内会計で自費÷総診療売上として毎月同じ定義で集計する
- ◆チェア当たり月商は月商÷稼働チェア数。概算目安は全体約161万円、個人立約145万円、法人立約196万円
- ◆月次は総売上・人件費率・自費率・チェア月商・再来率・損益差額率の6指標を、実績・目標・比較の3列で会議に載せる
利益が出る歯科医院を「利益率×再現性」で定義する:感覚経営から月次KPI経営へ
「利益が出る歯科医院」を単月の売上規模だけで判断すると、判断を誤ります。本質は、損益差額率(調査上の医業・介護収益と医業・介護費用の差額が収益に占める割合。税引前の概念であり、補助金等の医業外損益も含まないため、手取り額や税引後利益とは一致しません。個人立では開設者(院長等)の報酬に相当する部分が費用に計上されていない点にも注意)を維持しながら、チェア・人員・患者の稼働を月次で再現管理できているかです(厚生労働省「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 概要」)。年商が大きくても人件費率や稼働が崩れていれば、利益は残りません。
全国の歯科診療所数は66,378施設(令和6年10月1日現在)で、前年に比べ440施設減少しています(厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」)。開設者別にみると、前年と比べ医療法人が376施設増加、個人が855施設減少しており、年次推移は同概況の統計表3(開設者別にみた一般診療所数及び歯科診療所数の年次推移)で確認できます(同概況)。ただし施設数の全国推移から自院の競合環境を判断することはできないため、自院の数値を月次で同じ定義で把握する仕組みが必要になります。
そこで必要なのが、計測→比較→打ち手の3ステップです。自院の数値を毎月同じ定義で測り、開設形態・年商帯の目安と比較し、翌月のToDoまで落とす。これが「儲かる仕組み」の骨格になります。数字を可視化し、目標を具体的な行動指標にまで分解できている医院ほど、売上・利益・投資の循環をつくりやすいと考えられます。
公的調査で歯科診療所の平均を読む:給与費率・損益差額率の参照方法
外部ベンチマークの一次ソースとして最も使いやすいのが、厚生労働省の医療経済実態調査です。中央社会保険医療協議会が2年に1度実施している調査で(厚生労働省報道発表)、個別医院の目標値そのものではなく「全国の位置感」を掴む用途に向きます。
歯科診療所の損益率は「(医業・介護収益-医業・介護費用)÷医業・介護収益」で算出され、この収益は新型コロナウイルス感染症関係補助金を含まない額です。給与費率も同じ分母(医業・介護収益)に対する構成比率で示されます。確認できる直近の数値としては、第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 概要で、歯科診療所(医療法人)の令和6年度について、医業・介護収益に占める給与費の構成比率49.1%が示されています(分母=医業・介護収益、分子=給与費)。これは全国の平均的な位置を示す参考値であり、自院の推奨目標値ではありません。なお、出所不明のまま流通している歯科診療所の給与費率・損益差額率の数値は、同調査のどの開設形態・集計区分・年度の行に対応するかを特定できないものが多く、本稿では採用しません。比較に使う際は、必ず原典の該当表で開設形態・集計区分・年度の列を確認したうえで転記してください。

開設形態による給与費・損益差額の構造の違い(出典: 厚生労働省 第25回医療経済実態調査 歯科診療所(集計2)の区分をもとに作成)
読み方として重要なのは、開設形態を混ぜた単純比較は避けることです。同調査では、個人立の歯科診療所について「損益差額の計算上、開設者(院長等)の報酬に相当する部分が、費用に計上されていない」とされており、その分が損益差額側に残ります。逆に医療法人立では院長・理事報酬が給与費に入るため給与費率は高めに出て、損益差額率は低めに出ます。この差は経営の巧拙ではなく集計上の区分の違いによるものです。また損益差額は税引前・医業外損益の外側で捉えられる概念であり、個人立ではそこから院長の報酬相当分や設備改善のための内部資金が賄われる点にも留意が必要です。規模やユニット数の前提も開設形態によって異なるため、自院と比べる際は、まず自院と同じ開設形態・同程度の規模の区分を選び、その区分の数値だけを見比べてください。
「その他の診療収益」は、公的統計上の自費診療等を含む区分であり、院内でいう自費率(自費診療売上÷総診療売上)とは一致しません。自費率は会計ソフトやレセコンから別途、毎月同じ定義で集計する設計が必要です。自費の改善を進めるなら、初診から相談・見積・成約までを分解する自費カウンセリングKPI設計とセットで見るのが実務的です。
年商帯別に比較すべき5指標:人件費率・自費率・チェア当たり月商・予約系指標・損益差額率
本稿で確認した第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告の歯科診療所関係の公表集計表は、損益の状況・損益差額階級別施設数・職種別給与・資産負債・設備投資額などで構成されており、年商(医業収益)階級別に人件費率等を示した表は確認できませんでした。そのため実務では、自院データを年商帯・開設形態・ユニット数・診療日数・保険/自費構成・歯科医師数で層別し、同条件の比較軸を自分で作ります。月次で最低限並べたいのは次の指標です。
人件費率:給与・賞与・法定福利費・退職給付÷医業収益。医療経済実態調査の「給与費」も職員の給料・賞与・退職金(退職給付引当金繰入額または退職金支払額)・法定福利費を含む範囲で定義されており(第24回医療経済実態調査 報告)、分子の範囲は概ね対応します。ただし比較時は、①院長・役員報酬を含めるか(医療法人立は含む/個人立は含まない)、②退職給付を引当金繰入額と支払額のどちらで計上しているか、③調査の分母が医業・介護収益である点、の3点を揃えてください。公的調査の給与費構成比は開設形態・集計区分ごとの平均であり、自院が近づけるべき目標値ではありません。目標は自院の過去実績と人員計画から設定し、外部数値は原典の該当区分を確認したうえで位置確認にのみ用いてください(役員報酬の設定や外注費との振替でも変動します)
自費率:自費診療売上÷総診療売上。公的統計の「その他の診療収益」とは別定義で固定する
チェア当たり月商:月間医業収益÷稼働チェア数
次回予約取得率:分母=当月に来院し、治療継続またはリコール対象となった実患者数(治療完了・転医・中止申出の患者は除外)/分子=そのうち当月末までに次回予約を登録した患者数。判定は当月末締め
予約来院率:分母=当月に予約日が設定されていた予約件数(医院都合の日程変更分は除外、患者都合のキャンセル・無断キャンセルは分母に残す)/分子=そのうち実来院した件数。判定は当月末締め
損益差額率:損益差額÷医業収益。税引後利益や手取り額ではないことを踏まえたうえでの最終確認指標
指標は時間軸で役割を分けて扱います。損益差額率は費用が確定してから判明する遅行指標、自費率とチェア当たり月商は当月の売上を分子にとる同時(結果)指標です。翌月以降の売上・チェア稼働に対する先行指標として扱えるのは、自費相談件数・見積提示数・予約充足率(翌月の予約枠の埋まり具合)・次回予約取得率・予約来院率で、これらは週次〜月次で監視し、翌月の予約枠・人員配置・カウンセリング設計に反映させます。集患側の投資対効果を見る場合は、SEO・MEO・紹介・リコールを費用対効果で選ぶ90日レビュー設計と指標を接続すると、新規と既存のバランスが取りやすくなります。
チェア生産性を算出する:チェア当たり月商と診療日数からボトルネックを特定する方法
チェア当たり月商は「月間医業収益÷稼働チェア数」で算出します。ただし公的統計に歯科診療所のチェア当たり月商の公表値はなく、医療経済実態調査(第25回・医療機関等調査)は損益中心の調査であり、報告書の集計表・調査事項にユニット(歯科診療台)台数を尋ねる項目および稼働要件の記載は確認できませんでした。ユニット台数の全国統計としては医療施設(静態)調査の歯科設備の集計表に「歯科診療台(保有施設数・台数)」がありますが(e-Stat 歯科診療所数,開設者・歯科設備別)、これは調査日(10月1日)時点の保有・設置台数であって「稼働中」という要件は付いておらず、本稿の稼働チェア数とは概念が一致しません。したがって、収益は医療経済実態調査の事業年度値、台数は医療施設(静態)調査の別時点の値という異なる調査・時点の集計平均値どうしを割った参考比率しか作れず、それは施設ごとの比率を平均した値でもないため、自院KPIとの単純比較には使えません。全国平均との照合ではなく自院の推移比較に使う指標として扱ってください。
自院で使うときは、次の順で分解するとボトルネックが見えます。
月商÷稼働チェア数=チェア当たり月商
チェア当たり月商÷診療日数=1日1チェア当たり売上
予約枠数・充足率・キャンセル率・自費構成で「枠が足りないのか/単価が低いのか/キャンセルが削っているのか」を切り分ける
例えばチェア当たり月商が自院の過去水準を下回る場合、ユニットを増やす前に、予約消化率とキャンセル率、1枠あたりの診療内容を先に点検します。人件費率が高く、かつチェア生産性が低い場合は、人員増より稼働設計の見直しが先です。逆に生産性が高く人件費率だけ高い場合は、シフトと業務分担、外注範囲の再設計が主題になります。
年商帯が違っても使える月次ベンチマーク表の作り方:自院実績・目標値・匿名比較の並べ方
年商5,000万円台と2億円超では絶対額が違うため、比較の軸は「率」と「1チェア・1日当たり」に揃えます。月次ベンチマーク表は、次の列だけで十分機能します。
当月実績
前月比・前年同月比
直近3か月移動平均
自院目標(年商帯・開設形態を踏まえた到達点)
匿名比較群(同ユニット数帯・同開設形態の参考値、または院内過去ベスト)

月次ベンチマーク運用フロー(出典: ARXIA 編集部)
予約系の指標は全国平均との比較より、次回予約取得率と予約来院率を上記の算式のまま継続計測し、前年同月と直近3か月移動平均と比較するほうが改善管理に向きます。ダッシュボードに置く最小セットは、総診療売上、人件費率、自費率、チェア当たり月商、次回予約取得率、予約来院率、損益差額率です。
Bench Club メンバー限定の詳細レポートでは、感覚運営から脱却し、データに基づく現状分析・明確な目標設定・KPI管理・全スタッフでの実行までを体系化した戦略的目標設定の進め方が解説されています。月次表を「作って終わり」にしない医院の共通点を、自院の目標設計に転用できます。
KPI悪化時の改善優先順位:人件費率、自費率、予約系指標を数字で診断する
数値が悪化したとき、すべてを同時にいじると現場が止まります。診断は次の順が扱いやすいです。
損益差額率が下がっているか(調査定義に揃えた収益-費用の差額の確認。費用確定後に判明する遅行指標)
人件費率が上がっているか/売上が落ちているか(分母・分子の切り分け)
チェア当たり月商が落ちていないか(当月の稼働と単価の結果指標)
自費相談件数・予約充足率・次回予約取得率・予約来院率が先行して崩れていないか(翌月以降の売上とチェア稼働に対する先行指標)
人件費率の上昇が「売上減」由来なら、採用抑制より先に予約充足とキャンセル対策です。売上が横ばいで人件費だけ増えているなら、シフト・業務範囲・外注の見直しが主戦場になります。自費率が低い場合は、相談件数・成約率・平均単価に分解し、カウンセリングの設計から手を入れます。
次回予約取得率や予約来院率の低下は、数か月後の売上とチェア稼働を押し下げる要因になり得ます。リコール対象の抽出漏れ、次回予約の取得漏れ、連絡手段の不備を週次で点検してください。保険診療のメニュー別採算を見ると、枠の使い方によって利益貢献が大きく異なるため、Bench Club 限定の保険診療利益ガイドでは、点数・材料費・人件費から治療別の利益額を一覧化し、高利益処置と低利益・赤字になりやすい処置の見極め方や、複数列診療・時間枠設計などの工夫が整理されています。
儲かる仕組みを定着させる月次経営会議:ダッシュボード運用と改善アクションの決め方
KPIは会議体に載せて初めて運用になります。月次経営会議は60分以内を目安に、次の型で回します。
ダッシュボード指標の確認(15分)
前月ToDoの結果確認(10分)
悪化指標を1〜2つに絞る(10分)
翌月の打ち手を最大3件まで決定し、担当・期限・成功条件を書く(20分)
週次で見る先行指標(キャンセル、予約充足、相談件数など)を宣言(5分)
粒度の使い分けも重要です。日次はキャンセルと予約充足、週次は自費相談とリコール連絡、月次は人件費率・損益差額率・チェア当たり月商。遅行指標ばかり追う会議は「反省会」になりやすく、先行指標がない会議は「精神論」になりやすい、という二極を避けます。
電子カルテ・予約・会計が分断していると集計コストが月次のボトルネックになります。定義を固定したうえで、予約・電子カルテをつながる投資として選ぶDX導入の考え方も併せて検討すると、計測の再現性が上がります。
まとめると、儲かる歯科医院の特徴は「高売上」そのものではなく、開設形態を踏まえた人件費率と損益差額率の理解、自費率の院内定義、チェア生産性の分解、次回予約取得率・予約来院率の継続計測、月次会議での打ち手固定を回せている点にあります。まずは直近3か月の指標を同じ定義で並べ、自院の位置と最初の1手を決めるところから始めてください。
監修:石井 貴久(株式会社ARXIA 代表)
よくある質問
- Q. 儲かる歯科医院の特徴を一言で言うと何ですか?
- 単月売上の大きさより、損益差額率を維持しつつチェア生産性・人件費率・自費率・再来率を月次で再現管理できていることです。計測→比較→打ち手を会議体で固定している医院が該当しやすいです。
- Q. 歯科医院の人件費率の平均はどのくらいですか?
- 第25回医療経済実態調査の前年(直近事業年度)では、歯科診療所全体の給与費率は41.3%です。個人立は29.6%、医療法人立は49.1%で、個人立は開設者報酬が給与費に含まれない点に注意が必要です。
- Q. チェア当たり月商はどう計算すればよいですか?
- 月間医業収益÷稼働チェア数で算出します。公的調査値を単純月割りした概算は全体約161万円、個人立約145万円、医療法人立約196万円ですが、平均ユニット数の丸めがあるため自院では稼働チェア数と診療日数で分解して使います。
- Q. 自費率は厚労省統計のどの数字を使えばよいですか?
- 統計の「その他の診療収益」(全体19.8%など)は自費診療等を含む区分で、純粋な自費率ではありません。院内では自費診療売上÷総診療売上として独自集計し、毎月定義を固定してください。
- Q. 年商帯が違う医院とどうベンチマークすればよいですか?
- 絶対額ではなく、人件費率・自費率・損益差額率・チェア当たり月商・1日1チェア売上などの率・単位当たり指標で比較します。開設形態・ユニット数・診療日数で層別し、自院実績・目標・匿名比較(または過去ベスト)を月次表に並べます。
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歯科医院経営を成功に導く戦略的目標設定術:データ分析で実現する持続可能な成長
感覚的な運営から脱却し、戦略的なアプローチとKPI管理で持続可能な成長を実現することが、現代の歯科医院経営の必須要件です。成功している医院に共通するのは、データに基づいた現状分析、明確な目標設定、効果的なマーケティング、そして全スタッフで戦略を実行する組織力であり、これらを体系的に実践することで売上1.5倍の成長事例も生まれています。本記事では、新患数やKPI指標の活用、SEO・リスティング広告・SNSの実践的なマーケティング手法、さらにはミッション・ビジョン共有による組織強化まで、経営改善の具体的なロードマップを詳細に解説しており、自院の課題解決につながる実践的なヒントが満載です。
Bench Club で続きを読む →保険診療の利益を最大化する実践ガイド
本資料は、歯科医院が提供する主要な保険診療メニューについて、点数・材料費・人件費から実際の利益額を詳細に計算し、一覧化したものである。スケーリングやSPT等の高利益治療から、根治や銀合金インレーなどの低利益・赤字治療まで、治療別の採算性を明示し、保険診療は儲からないという通説を検証。併せて利益を出すための工夫(複数列診療、15分枠設定、材料費削減等)を提示し、経営効率化の実践的ガイドとなっている。
Bench Club で続きを読む →参考資料
- 第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)歯科診療所(集計2)
- 医療経済実態調査(医療機関等調査)
- 令和5年医療施設調査 結果の概要(施設数)
- 令和5年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況
- 歯科医院の自費カウンセリングKPI設計――初診から相談・見積・成約までを分解して改善する
- 歯科医院の集患・増患の方法は?SEO・MEO・紹介・リコールを費用対効果で選ぶ90日レビュー設計ガイド
- 歯科医院のAI・予約・電子カルテを「つながる投資」にする――API・患者ID・運用責任で選ぶDX導入チェックリスト
- 歯科医院経営改善とWeb広告最大化戦略 — ARXIA 編集部
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