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分院展開戦略|分院展開×エリア戦略 意思決定の教科書

歯科医院の分院展開を考える――2院目開業のタイミング・診療圏調査・資金調達と必要な行政手続きの整理

分院展開は「なんとなく拡大」では資金繰りを壊します。結論として、2院目開業は本院売上1億円超・医療法人化・分院長候補・財務体力の4条件が揃ってから踏み切るのが現実的です。本記事では踏み切り時の判定基準、診療圏調査の読み方、採算ラインの試算と資金調達シミュレーション、分院長育成までを公的統計と一次ソースで一本化して解説します。

  • 2院目開業は本院売上1億円超・医療法人格・分院長候補・財務体力の4条件を踏み切り判定軸にする
  • 診療圏は一次500m・二次1km。推計患者数(人口×受療率÷競合数+1)が事業計画と融資審査の根拠になる
  • 初期投資は5,000万〜7,500万円、自己資金20%以上、公庫は最高7,200万円・無担保3,000万円まで。内諾まで2〜3か月
  • 分院標準は分院長+勤務医2名・スタッフ4〜6名・チェア5〜6台。経営安定の目安は開業約3年
  • 本院の型(患者リテンション・定着・オペ)が再現可能になる前の『なんとなく拡大』は資金繰りを悪化させる

※本記事は分院展開を検討する際の判断材料を編集部が整理したものです(本文中の制度・条文・融資条件は公開日時点で確認した情報にもとづきます)。法令・制度・融資条件は改定があり、個別ケースで取扱いが異なります。最終的な判断は、所轄の都道府県・保健所、税理士・社会保険労務士・行政書士等の専門家、および各金融機関への確認のうえで行ってください。文中には自社サービスへの案内を含みます。

分院展開を検討する前に――市場環境を一次統計で押さえる

全国の歯科診療所数については、厚生労働省の医療施設調査・動態調査で随時公表されており、施設数の動向はこの公的統計で確認できます。同調査は、全国の医療施設から提出された開設・廃止などの申請・届出を基に、毎月「動態調査」として医療施設数・病床数・診療科目などの動向を把握し集計・公表しているとされています(参照時点の数値は各公表回でご確認ください)。市場の規模や患者数の動向を論じる際は、施設数のほか、患者調査・国民医療費・社会医療診療行為別統計・人口推計など、目的に応じた一次統計を併せて確認することが望ましいといえます。

地域による医院密度の差や市場環境の変化は経営判断に影響しますが、その大きさや方向性は指標の取り方によって変わります。自院の商圏を判断する際は、上記の公的統計や総務省の人口推計・住民基本台帳人口などをもとに、対象エリアの条件を具体的に確認することをおすすめします。エリアを選んで複数院で面を取る戦略は、単院の頭打ちを超える選択肢の一つとして語られることがありますが、成功するかどうかは立地・体制・財務などの条件次第であり、分散による共倒れの危険もあります(成功率や収益性を裏づける公的データを示すものではありません)。

市場環境は「拡大すべき」という結論を直ちに意味しません。経営資源が分散すれば本院ごと共倒れになる危険があります。だからこそ、踏み切りの判断軸を定量化することが先決です。

2院目開業の『踏み切り時』を検討する際の視点

踏み切り時を見極める際の中核は、本院自体の収益体質と体制が安定しているかどうかです。売上規模だけで分院の可否は判断できず、利益水準・キャッシュフロー・借入余力・院長への業務依存度・チェア稼働率・人員体制などを自社で検証することが現実的です。たとえば月次の営業キャッシュフロー、借入金の年間返済額に対する返済余力、院長不在時の売上比率、チェア稼働率(稼働時間÷診療可能時間)など、自院で実際に確認できる指標に落として点検すると判断しやすくなります。見るべき利益指標は事業形態で異なり、個人開業医では事業所得や手元キャッシュフロー、医療法人では医業収益・医業利益・経常利益のほか、院長報酬を調整した後のキャッシュフローを併せて確認すると実態を把握しやすくなります。なお、あるコンサルティング会社(船井総合研究所)は「分院展開に関しては、本院が1億円を突破されてから検討される場合が大半です」としていますが、これは一コンサル会社が示す営業上の目安であり、一次情報・公的統計ではありません。

踏み切りを検討する際は、次のような点を点検すると整理しやすくなります。

  1. 本院の収益力・返済余力:売上だけでなく利益水準・キャッシュフローの安定性、チェア稼働率を確認する
  2. 法人格:複数院の運営や事業承継を見据えて医療法人化を検討するケースがある。ただし医療法人には非営利性の確保や剰余金配当の禁止(医療法第54条。「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。」)、役員報酬や行政手続きなど複数の論点があり、節税のみで判断すべきものではない。検討タイミング・メリット・デメリットは税理士・社会保険労務士など専門家への個別相談が前提となる
  3. 分院長候補:信頼できる管理者(分院長)の有無。後述のとおり各診療所には管理者となる歯科医師が必要となる
  4. 財務体力:自己資金と運転資金の余裕。B/Sのバランスが崩れていないか

収益力・体制・財務のいずれかが整っていない段階では、本院の収益基盤づくりを先行させ、段階的に準備する方が安全と考えられます。

分院開設に必要な行政手続き――管理者・開設許可・指定申請

分院展開は経営判断であると同時に、法令上の手続きが伴います。開設者の区分によって根拠条文と手続きが異なる点に注意が必要です。医療法第7条では、臨床研修等修了医師・臨床研修等修了歯科医師「でない者」(医療法人など)が診療所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事(保健所を設置する市・特別区ではその長)の許可を受けなければならないとされています。一方、臨床研修等修了の歯科医師が個人として診療所を開設する場合は、医療法第8条に基づき開設後10日以内に開設届を提出する取扱いとなります。

ただし、この「開設後10日以内の届出」は、開設者である歯科医師本人がその診療所を管理する場合の取扱いである点に注意が必要です。医療法第12条では、開設者が管理者となることができる者である場合は自らその診療所を管理しなければならず、都道府県知事の許可を受けた場合に限り他の者に管理させることができるとされています。すでに本院を自ら管理している院長が個人名義で2院目を出し、本院の管理を続けながら分院を別の歯科医師に管理させる、あるいは自身が両院を兼任するといったケースは、この第12条の許可・運用の確認が絡みます。本院運営中の分院開設をどの手続き・名義で行うかは、医療法人化の有無も含めて取扱いが分かれるため、所轄保健所への事前確認が前提となります。

管理者については、医療法第10条で、診療所の開設者は、その診療所が歯科医業をなすものである場合は臨床研修等修了歯科医師に管理させなければならないとされています(医業と歯科医業を併せ行い主として歯科医業を行うものも同様)。これは開設許可・開設届(第7条・第8条)とは別の規定です。管理者の常勤性については、昭和29年の厚生省通知(医収第403号)で「管理者は、当該病院又は診療所における管理の法律上の責任者であるから、原則として診療時間中当該病院又は診療所に常勤すべきことは当然」とされ、その後の令和元年9月19日付け通知(医政総発0919第3号ほか)でも、管理者は原則として勤務時間中常勤とするとされたうえで、へき地等で常勤確保が困難な場合などに例外的取扱いが示されているのが、全国向けの根拠(法令・通知)にあたります。なお管理者の兼任については、前述の医療法第12条により、都道府県知事の許可を受けた場合を除き他の診療所を管理しない者でなければならないとされています。具体的な常勤性の判断や例外の認否は自治体運用により異なるため、分院ごとの管理者確保にあたっては所轄保健所への事前確認が必須です。

医療法人が分院を開設する場合は、さらに手続きが加わります。たとえば東京都保健医療局は、診療所の新規開設等の手続きについて、診療所の開設等の前に定款又は寄附行為の変更認可を受け、法人登記を済ませておく必要があるとし、変更認可には3か月程度を要するため計画的に手続きを進めるよう案内しています。これはあくまで東京都の運用・所要期間であり、事前協議の要否・審査期間・必要書類は他の道府県では異なります。認可後は法務局での登記、保健所での開設許可申請・開設届、保険診療を行う場合は地方厚生局への保険医療機関の指定申請が必要です。これらは都道府県・保健所により取扱いや期間が異なるため、早めに所轄窓口へ相談し、十分な準備期間を計画に織り込むことが重要です。

候補地選定の診療圏調査――人口動態・競合密度・通勤人口の読み方

立地は分院の成否を左右する、後から変えにくい要素です。診療圏分析では、たとえば500m圏内を一次診療圏、1km圏内を二次診療圏と置くような区分が用いられることがありますが、これは公的に定まった基準ではなく、本記事で示す簡易な考え方の一例(編集部の例示)にすぎません。実際の集患範囲は立地・診療内容・交通導線・高齢化率・競合の規模で大きく変わります。診療圏は円形にもならず、幹線道路・鉄道・河川などの物理的要因や、駅・渋滞・勾配などの心理的要因で形がいびつになるため、机上の調査に加え現地調査が欠かせません。

推計患者数を「診療圏内人口×受療率÷(競合医院数+1)」といった簡易モデルで概算する考え方が紹介されることがありますが、これも出典のある公式手法ではなく仮の計算例であり、競合医院の規模・診療時間・専門性、年齢階級別人口、通院頻度、駅導線などを考慮しない粗い式です。これだけで事業の成否を判断できるものではなく、実際の事業計画に用いるには不十分です。実際には年齢階級別人口や歯科の受療率、既存院のユニット数・診療日数・立地条件などを踏まえた補正と、現地確認が前提となります。歯科の人口当たり施設数や受療率といった採算判断の前提は、医療施設動態調査・患者調査などの一次統計で確認することをおすすめします。なお歯科と医科では競合密度や通院頻度、自費比率などの影響要因が異なるため、医科向けの居住人口目安などをそのまま歯科に当てはめることはできません。

なお複数院展開では、カニバリゼーション(自院同士の患者の食い合い)を避ける観点から、各分院の一次診療圏が重複しすぎないかを確認することが重要です。一方で都市部・専門診療・ブランド戦略・駅前立地などでは、診療圏の重複を前提に展開するケースもあり、一律に重ならない出店間隔が正解とは限りません。郊外の1号店で安定させてから都心方向へ広げる進め方も、一例として考えられます。

採算ラインの試算と資金調達シミュレーション

分院の初期投資は規模・立地・設備(CT等)の有無、新規か承継かで大きく変わります。株式会社ミックでは、一般的なユニット3台程度の診療所の場合で5,000万円以上といわれると紹介されていますが、これは一事業者が示す事例ベースの目安にすぎません。機器リースの活用などで初期費用を圧縮する選択肢もあり、実際の金額は計画によって大きく変わります。

自己資金の目安は事業計画や金融機関により異なるため、確保すべき水準は取引予定の金融機関に個別確認することをおすすめします(院や計画によります)。

融資先の一つに日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」がありますが、すでに本院を運営している歯科医院が分院を開設する場合に必ず使える制度ではありません。対象になるかは本院の事業開始時期・法人化の有無・実質的な事業拡大の扱いによって変わり得るため、まず自院が対象に当てはまるかを公庫の窓口で確認することが前提です。制度の内容は公庫の制度ページで確認できます。公庫の公表資料によれば、設備資金は20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金は10年以内(うち据置期間5年以内)とされ、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)とされています。融資限度額はあくまで上限であり、実際の融資額・金利・据置期間は事業計画や審査によって決まります。無担保・無保証人や返済期間の取扱いも含め、申込前に必ず公庫の公式サイトおよび窓口、必要に応じて民間金融機関にも確認してください(本記事は公開日時点の公式情報をもとにした整理であり、制度改定の影響を受けます)。資金調達は逆算したスケジュール設計が欠かせません。

予約・キャンセルの運用が甘いと、開業初期の運転資金が想定より早く目減りします。予約キャンセル率を収支シミュレーションに織り込む際の考え方は、章末の関連テーマも参考になります。

分院長育成と人員計画――体制づくりの考え方

分院の人員規模は、診療内容・診療時間・ユニット数によって大きく変わります。たとえば分院長+勤務医、歯科衛生士・歯科助手を含むスタッフ数名、チェア数台といった構成はモデルケースの一例にすぎず、小規模分院ではより小さな体制から始めるケースもあります。自院の診療方針に合わせて人員計画を設計することが前提です。

分院展開のリスクとして、人・モノ・金・情報の分散、患者ニーズの地域差による成功パターンの不適合、本部との距離による理念・ビジョンの風化といった点が指摘されることがあります。これらを抑える要は、管理者(分院長)の質と、理念を共有し続けるコミュニケーション設計にあります。

分院長のインセンティブ設計では、固定給に歩合を組み合わせる例が紹介されることがあります。ただし歩合給や役員報酬の設計は、労務・税務・医療法人制度上の適法性の確認が必要であり、あくまで一例として、社会保険労務士・税理士・弁護士へ確認のうえ設計してください。分院長候補を本院で院長業務を経験させながら育てる進め方は、現実的な選択肢の一つです。

本院の採用・定着基盤が整っているかどうかは、開業後の人員計画の成否に影響すると考えられます(編集部の所感であり、統計的な調査結果ではありません)。採用が回らないまま2院目を開くと、本院から人を抜くことになり共倒れの原因になりかねません。

金融機関を説得する事業計画書の骨組みと数字の作り方

融資審査では、診療圏調査に基づく事業計画書が返済可能性を説明する資料として有用です。前述の推計患者数の概算(仮の計算例)を出発点に、初期投資・自己資金・運転資金・返済計画を一貫した数字でつなぐことが重要です。なお推計患者数は概算にすぎないため、立地条件を踏まえた補正と根拠の明示が求められます。

事業計画書は、次の順で組み立てると審査担当者に伝わりやすくなります。

  • 診療圏調査レポート(推計患者数・競合密度・将来人口)
  • 初期投資の内訳(内装・ユニット・機器・予備費)
  • 資金調達構成(自己資金+公庫・民間銀行)
  • 収支計画と損益分岐(採算ラインに達する時期の明示)
  • 運転資金の見込み

金融機関には日本政策金融公庫・民間銀行などそれぞれ融資対象・条件・歯科業界への理解度に差があります。どの制度・金融機関が自院に適するか、融資対象や担保・保証条件を一次情報で確認したうえで選定してください。診療圏調査に基づく根拠数値は審査担当者への説明材料になり得るため、診療圏分析の精度を高める準備が役立ちます。

失敗事例に学ぶ『なんとなく拡大』から脱却するために

実務上、分院展開の失敗要因として実務家の見解で語られることがあるのは、本院の型が固まらないまま2院目を出すことです(倒産統計などに基づくものではなく、経営助言として一般に語られる指摘です)。患者リテンション・スタッフ定着・オペレーションが本院で再現可能な状態になっていれば、分院でも成功パターンを移植しやすくなると考えられますが、これも因果を裏づける公的データを示すものではありません。

市場環境がどうあれ、エリアを選び、診療圏の数字で裏を取り、必要な行政手続きを織り込み、資金と人を計画的に揃えることが、分院展開を成立させる前提です。判断軸を定量化し、踏み切り時を見極めることから始めてみてください。具体的なシミュレーションを詰めたい場合は、当社の無料の30分相談もご活用ください(自社サービスのご案内です)。

関連テーマ

よくある質問

コンサルティング各社の見解では、本院売上が1億円を超えてからの検討開始が大半のケースです。加えて医療法人格(分院開設に必須)、信頼できる分院長候補、自己資金・運転資金の財務体力が揃っているかを点検し、不足があれば本院拡大・医療法人化を先行させるのが安全です。
一次診療圏は半径約500m、二次診療圏は約1kmが標準です。推計患者数は『診療圏内人口×受療率÷(競合医院数+1)』で算出し、これが事業計画書・融資審査の根拠になります。河川や幹線道路で診療圏が分断される点、日常行動線に沿った立地が集患力を高める点も併せて評価します。
ユニット3台程度で最低5,000万円以上、立地・規模により7,000万〜7,500万円前後が目安です(事例ベース)。自己資金は全体の20%以上(1,000万〜1,500万円)、日本政策金融公庫は最高7,200万円・無担保で3,000万円まで融資可能とされ、開業後6か月分の運転資金約1,000万円の確保が推奨されます。

この記事の詳細は Bench Club 限定レポートで

全国約68,000軒の歯科医院のうち医療法人化できているのはわずか25%という現実の中で、開業10年で医療法人化と分院展開を実現した土屋慎太郎先生の成功事例から、臨床と経営の両立術を学べる内容です。小さく始めて段階的に成長する戦略、インストラクターレベルまで専門性を極める方法、技工ラボ内製化による品質管理、スタッフの幸せを軸とした組織運営、そしてアウトソーシングによる時間創出という5つの要素が、特別な才能ではなく体系的アプローチで誰にでも実現可能であることを実証しています。これら要素の統合的な経営戦略が、臨床と経営の好循環を生み出し、歯科医院の持続的成長につながる具体的方法論として展開されています。

参考資料

  1. 医療施設動態調査(令和6年2月末概数)|厚生労働省
  2. 歯科医院数の推移を読み解く(歯科経営のミカタ)
  3. 都道府県別 歯科医院数ランキングから見る歯科医院の課題(ORTC)
  4. 分院展開のタイミング(船井総合研究所)
  5. 分院展開の留意点(船井総合研究所)
  6. 歯科医院の医療法人化(株式会社ミック)
  7. 歯科医院の分院展開メリットとデメリット(歯科開業トピックス・インサイト)
  8. 歯科診療圏分析の見方とポイント(歯科開業トピックス・インサイト)
  9. 見込み集患数が分かる「診療圏」とは?(Dental Life Design)
  10. 歯科医院の予約キャンセル対策に自動化・AIをどう使うか
  11. 歯科医院の心理的安全性×スタッフ自律化
  12. 歯科医院「買い手視点のM&A入門」
  13. 歯科医院経営の成功法則|開業から10年で分院展開を実現した「臨床×経営」両立術
    Bench Club で続きを読む →
  14. 歯科医院の事業承継計画 — 開業10年後から考える医院価値の高め方 — ARXIA 編集部

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