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採用戦略|歯科医院のリファラル採用制度設計の実践法

歯科医院のリファラル採用設計ガイド――衛生士・医師の紹介制度の作り方と運用KPI

求人倍率の高い歯科衛生士市場では、広告出稿だけでは採用が決まりにくくなっています。リファラル採用は「紹介=採用」ではなく、共通の選考基準・謝礼規程・入職後フォローを明文化した仕組みです。本記事では職種別の設計差、インセンティブの決め方、運用フロー、税務・公平性の確認点、KPI管理まで実務順に整理します。

  • ◆歯科衛生士の求人倍率は令和4年度22.6倍で、広告依存だけでは採用経路が細い
  • ◆リファラルは紹介者推薦で採否を決めず、通常応募と共通の職務要件・公正選考が前提
  • ◆制度は対象・選考基準・謝礼・支給時期・不採用/早期退職時の扱いの5点を規程化する
  • ◆謝礼は外部採用単価と定着リスクから逆算し、分割支給と税務・給与取扱いを専門家確認する
  • ◆KPIは紹介件数だけでなく、採用率・チャネル別単価・1〜12カ月定着率で管理する

歯科医院でリファラル採用が注目される理由――求人広告費と採用難への対応

歯科医院の採用は、求人媒体に掲載して応募を待つだけでは決まりにくいという声があります。求人広告費を積み増しても成果が比例するとは限らないため、既存スタッフの人脈を採用経路として設計するリファラル採用(紹介制度)が、選択肢のひとつとして検討されています。

歯科衛生士については、結婚・出産・転居などで一度現場を離れた人が復職を検討する場合があり、スタッフのネットワークがその接点になる余地があります。紹介であれば、勤務条件やブランクへの不安を事前にすり合わせられる可能性はありますが、紹介経由でもミスマッチは起こり得ます。紹介の成否や定着は、院側の条件提示と入職後の受け入れ体制に左右されると考えたほうが安全です。

また、歯科衛生士の確保は単なる人員補充ではなく、予防管理やメインテナンスをどこまで担えるかという診療体制に関わります。リファラルは「広告費を削るための安い採用」ではなく、広告依存度を下げながら入職後の定着まで含めて運用するチャネルとして設計する視点が重要です。紹介した側・された側の双方が働き続けられる状態をつくれなければ、制度は続きません。

求人広告中心の採用とリファラル採用を比較した概念図
求人広告中心の採用とリファラル採用の違い(出典: 編集部作成(概念図))

リファラル採用で採れる職種・採れにくい職種――歯科衛生士・歯科医師別の設計

紹介制度は職種ごとに「誰のネットワークが効くか」が異なります。歯科衛生士は、同僚・元同僚・養成校の同期・復職検討層との接点が想定しやすく、スタッフ紹介を設計する対象として検討しやすい職種です(職種別の紹介率・採用率を示す公的な統計はなく、あくまで設計上の仮説です)。

歯科医師については、令和6年12月31日現在の全国の届出数が103,652人です(令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計)。これは母集団の規模を示す数値であり、地域ごとの需給や採用難易度を示すものではありません。紹介自体は起きますが、勤務可能日、担当可能な診療範囲、診療方針の一致、常勤・非常勤の希望が合わないと不成立になりやすく、資格確認に加え、通常応募と同一の職務要件で選考することが前提です。

  • 歯科衛生士:予防・歯周管理・自費カウンセリングなど、院の役割定義を先に言語化する
  • 歯科医師:担当ユニット、診療科目、オンコール有無、歩合・固定の条件を事前に固定する
  • 歯科助手・受付:紹介の候補が挙がりやすい職種だが、教育標準と評価基準がないと早期離職につながりやすい

紹介で「採れにくい」のは、院の魅力や役割が言語化されていない場合です。求人原稿や面接で伝える内容が曖昧だと、紹介者も候補者へ説明できません。誰がどの業務を担うかを先に決めておくことが、紹介のしやすさにつながります。

制度設計の5要素――紹介対象・選考基準・謝礼・支給時期・不採用時の扱い

リファラル採用は、口頭の「誰かいい人いない?」では続きません。少なくとも次の5要素を規程化します。

  1. 紹介対象:対象職種と雇用形態(常勤・非常勤)、および紹介対象から親族を除外するかどうか
  2. 選考基準:通常応募と共通の職務要件・面接項目・合否判断
  3. 謝礼:医院が紹介者(在籍スタッフ)へ支給する金額または段階額と、その支給条件
  4. 支給時期:内定時点では支給せず、入職後何カ月経過した時点で支給するかを固定する
  5. 不採用・辞退・早期退職時の扱い:不支給とするか、支給済み分の返還を求めるかを明記

紹介者の推薦だけで採否を決める運用は避けます。法律上の義務として、労働者の募集・採用では、厚生労働省令で定めるところにより年齢にかかわりない均等な機会を与えなければならず(省令で定める例外があります)、男女雇用機会均等法は募集・採用に係る性別を理由とする差別を禁止しています。これとは別に、行政が求める考え方として公正な採用選考の基本があり、応募者に広く門戸を開いたうえで適性・能力に基づく基準で選考することが求められています(一般公募を法的に義務づけるものではありません)。実務上の結論としては、紹介経由でも応募者の適性・能力とは関係のない事項(家族や生活環境、私的関係など)で採否を決めないことです。

紹介対象から謝礼・不採用時対応までのリファラル制度5要素の流れ
リファラル制度設計の5要素(出典: ARXIA 編集部)

規程には、候補者本人の同意取得、紹介者と採用担当の連絡ルート、個人情報の取扱いも書き込みます。外部コミュニティや紹介代行サービスを介す場合は、募集情報等提供と職業紹介の区分を確認してください。厚生労働省の整理では、求人情報または求職者情報を提供するのみで、求人・求職の申込みを受けず雇用関係の成立のあっせんを行わない場合は職業紹介に該当しません。一方、①事業者の判断で提供相手や提供する情報を選別する、②相手に応じて情報内容を加工する、③求職者と求人者の意思疎通を中継する際に自らの判断で加工する、④求職者へ求人情報を、求人者へ求職者情報を連絡する、といった行為は職業紹介該当性の判断要素とされ、宣伝広告や契約内容から見てあっせんを事業として行っていると評価される場合は全体として職業紹介に当たり、許可等が必要になります(職業紹介事業の業務運営要領)。当てはめとして、間に入って面接日程を調整することや、特定の求職者の連絡が優先的に届くよう差配することは意思疎通への加工に該当し得る一方、履歴書等の一般的な記載についての助言は加工に当たらないと整理されています。外部事業者に候補者の選別・情報加工・連絡や日程調整を委ねる形になっていないか、契約と報酬設計まで含めて確認してください。

紹介インセンティブの相場と決め方――採用コスト・定着率から逆算する

謝礼額に「業界統一の公定相場」はありません。院ごとの外部採用単価から逆算するのが実務的です。比較するときは、求人媒体・人材紹介・リファラルのいずれについても、広告掲載費・成果報酬・紹介手数料・謝礼・院内の採用工数・入職後のオンボーディング費用を同じ費目、同じ観測期間(例:入職後6カ月時点)で集計し、1人当たり採用単価をそろえて比べます。

決め方の目安は次のとおりです。

  • 媒体や紹介会社の想定採用単価の一定割合を上限に置く
  • 入職時一括より、試用期間後・3カ月定着後の分割支給にして早期離職リスクを抑える
  • 職種で差をつける場合は、欠員影響の大きさ(衛生士・医師)を説明可能にする
  • 紹介のみで高額にしすぎず、定着インセンティブとセットで設計する

金額そのものより、「いつ・何の条件で払うか」が公平性を左右します。内定辞退や入職後すぐに退職した場合の不支給条件を先に決め、スタッフ全体へ同じルールで周知します。

募集から入職後3〜6カ月までの運用フロー――紹介者・候補者との連絡ルール

制度は「受付〜定着確認」までが一連です。紹介者が選考の進捗を抱え込まないよう、連絡窓口は採用担当(院長または事務長)に一本化します。

紹介受付から定着確認・謝礼支給までのリファラル運用フロー
紹介から定着までの運用フロー(出典: ARXIA 編集部)
  1. 院内周知:対象職種・謝礼・禁止事項(強制紹介、候補者への圧迫)を説明する
  2. 紹介受付:紹介シート(関係性、連絡先、同意有無)を受理する
  3. 本人同意:候補者へ医院から正式連絡し、応募意思を確認する
  4. 通常選考:紹介者を同席させず、共通基準で面接・合否を出す
  5. 結果共有:不採用時は理由の詳細を紹介者へ伝えすぎず、丁寧にクローズする
  6. 入職後:1〜90日の業務習熟・1on1を実施し、3〜6カ月で定着を確認してから謝礼を支給する

入社直後の立ち上がり設計が定着を左右します。教育が属人化している院では、応募経路にかかわらず「聞いていた話と違う」が起こり得るため、マニュアル、評価項目、指導担当を先に決めます。事業承継や体制変更の局面では、スタッフ承継を含む事業承継ロードマップと採用計画を同時に見る必要があります。

トラブルを防ぐ就業規則・税務・公平性の確認ポイント

紹介謝礼は、税務より先に職業安定法上の位置づけを確認します。自院が自ら行う採用活動は同法上の「労働者の募集」に当たり、被用者以外の者に報酬を与えて募集に従事させる場合は厚生労働大臣の許可と報酬額の認可が必要ですが(36条1項・2項)、自院の被用者である勤務医・歯科衛生士へ紹介を依頼する場合は許可・届出の対象外です。ただし40条は、募集を行う者が「その被用者で当該労働者の募集に従事するもの」等に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合などを除いて報酬を与えてはならないと定めています。このため謝礼は、就業規則・賃金規程に支給要件と金額を明記して賃金として支給する形が条文上は説明しやすく、賃金体系外の一時金や金券での支給は40条との関係でリスクが残ります。なお「就業規則に基づく通常の賃金であれば40条の報酬に当たらない」と明示した厚生労働省の一次資料は確認できていないため、個別の設計は所轄労働局の需給調整事業部門へ事前に照会してください。

あわせて境界も確認します。同法4条は「職業紹介」を求人・求職の申込みを受けて雇用関係の成立をあっせんすることと定義しており、自院求人への紹介は募集にとどまりますが、他院・他社への紹介を反復継続すれば30条の許可を要する職業紹介事業に該当し得ます。無許可での職業紹介には罰則があります。また39条は募集に応じた労働者から報酬を受けることを禁じており、令和6年の職業安定法施行規則・指針改正(令和7年4月1日適用)により求職者へ金銭やギフト券等を提供することは原則禁止とされたため、紹介会社や求人媒体を絡めた「お祝い金」型の設計は採れません。

そのうえで、税務上の取扱いも確認します。国税庁の解説(給与所得となるもの)では、役員や使用人に支給する手当は原則として給与所得とされており、給与計算・源泉徴収の対象になり得ます。他方、労働基準法上の賃金に当たるか、健康保険・厚生年金保険の報酬または賞与に当たるかは所得税とは別の基準で判断されるため、支給名称だけで決めず、支給条件・支給頻度を整理したうえで税理士・社会保険労務士へ個別に確認してください。

規程化の範囲は事業場の規模で変わります。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則を作成し、労働者代表の意見書を添えて所轄労働基準監督署へ届け出る義務があり、賃金の決定・計算・支払の方法などは必ず記載しなければならない事項です。10人未満で作成義務がない医院でも、支給条件を書面化しておくとトラブルを避けやすくなります。既存の賃金規程を変更する場合は、不利益変更に当たらないかを確認します。

就業規則・関連規程で確認したい点は次のとおりです。

  • 紹介制度の位置づけ(賃金規程の手当か、都度支給の報奨か)
  • 対象者の範囲(正職員のみか、パートを含むか)
  • ハラスメント防止(紹介の強要禁止、不採用を理由にした不利益取扱いの禁止)
  • 個人情報の取扱い(候補者情報の保管期間と共有範囲)
  • 紹介者と被紹介者が同一選考に関与しない利益相反ルール

公平性の観点では、「紹介できる人脈を持つスタッフだけが得をする」印象を避ける説明が必要です。謝礼は採用協力への対価であり、評価制度や賞与とは別物であること、紹介がなくてもキャリア評価は変わらないことを明示します。処遇全体の見直しと並行する場合は、診療報酬改定の要点整理も参照し、人件費原資の見通しを合わせて確認してください。

広告依存を減らすKPI管理――紹介数・採用率・採用単価・定着率の見える化

リファラルの成果は「紹介が何件あったか」だけでは測れません。漏斗とコスト、定着をセットで見ます。

  • 紹介件数(月次・職種別)
  • 紹介応募率・面接率・内定率・入職率
  • チャネル別1人当たり採用単価(媒体/人材紹介/リファラルを、広告費・手数料・謝礼・院内工数・オンボーディング費用という同一費目、同一観測期間で集計)
  • 入職後1・3・6・12カ月定着率

運用のコツは、四半期ごとに「謝礼額と定着」「紹介者の偏り」「不採用理由の傾向」を見直すことです。紹介が特定スタッフに集中していても原因は一つに決まりません。人脈の広さや在籍年数、職種構成、地域性、制度の認知度、求人条件などを仮説として並べ、スタッフへのヒアリングやチャネル別データで一つずつ確認します。件数が伸びないときも同様に、制度の周知不足、応募条件、教育体制、労働時間といった複数の要因を切り分けてから対策を決めます。

リファラル採用は、求人広告をゼロにする手段ではありません。広告・自院サイト・紹介を併用し、採用単価と12カ月定着率でチャネルを評価する経営判断です。制度のたたき台づくりやKPI設計を院内だけで進めにくい場合は、無料の30分相談で現状の採用漏斗を整理することも可能です。

監修:石井 貴久(株式会社ARXIA 代表)

よくある質問

いいえ。紹介は応募経路のひとつであり、採否は通常応募と同じ職務要件と選考基準で判断します。年齢・性別など属性を理由にした取扱いや、紹介者との私的関係を優先する運用は避けてください。
公定の統一相場はありません。求人媒体や人材紹介の採用単価、採用工数、早期離職リスクを比較し、院ごとに上限を決めるのが実務的です。入職直後の一括より、試用期間後や3カ月定着後の支給にするとリスクを抑えやすいです。
従業員への手当は原則として給与所得として扱われる可能性があります。支給条件、源泉徴収、社会保険上の扱い、対象者の範囲は、制度化前に税理士・社会保険労務士へ確認してください。
選考の公正さは共通ですが、職務要件・勤務条件・欠員影響が異なるため、対象条件や謝礼段階を職種別に設計する方が運用しやすいです。とくに歯科医師は勤務日数・担当範囲・方針一致の確認を厚くします。
謝礼額より先に、役割定義・労働条件・教育体制・人間関係など「紹介したくなる職場か」を確認します。併せて、制度の周知不足、紹介手順の煩雑さ、不採用時の伝え方の不安がないかも点検してください。

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ベースアップ評価料は令和6年度診療報酬改定で新設された制度で、令和8年度改定により初診点数が21点から段階的に52点まで拡大され、事務職員や40歳未満の歯科医師が新たに対象職員に追加されました。本制度は算定した全収入を対象職員の賃金改善に充当する義務があり、基本給への上乗せではなく「ベースアップ評価料手当」として新設することで、実績報告の集計が容易で原資不足時の調整も可能になります。令和8年度と令和9年度に段階的な賃上げ(医療職3.2%・事務職5.7%)を目指す制度であり、届出の有無がスタッフ定着に影響するため、早期の導入検討が経営課題として重要性を高めています。

参考資料

  1. 歯科医療機関における歯科衛生士について(求人倍率)
  2. 第3回歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会 資料2
  3. 令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(結果概要)
  4. 採用・選考時のルール(厚生労働省)
  5. 公正な採用選考の基本
  6. No.2508 給与所得となるもの(国税庁)
  7. 募集情報等提供と職業紹介の区分(厚生労働省)
  8. 歯科医療を取り巻く現状及び歯科医療提供体制
  9. 口腔機能実地指導料の届出後運用――研修済み歯科衛生士の退職・異動時に確認できること/確認できないこと
  10. 歯科医院の事業承継は何から始める?2026年9月からの遡及指定の取扱い変更を踏まえた開設届・保険指定・スタッフ承継の実務ロードマップ
  11. 2026年度歯科診療報酬改定の要点整理――口腔機能・歯周病継続支援・周術期管理を一次資料で確認する手順
  12. 歯科医院の採用成功率を劇的に向上させる最新戦略! — ARXIA 編集部
  13. 歯科医院のためのベースアップ評価料解説
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