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財務戦略|利益を残す歯科集患投資の診断法

新患数が増えても利益が残らない歯科医院の診断法――媒体別CPA・来院率・90日限界利益で集患投資を見直す

新患数が増加しているにもかかわらず利益が残らない歯科医院は、集患評価を「予約数」や表面的な「予約CPA」だけで行っているケースがほとんどです。媒体別の実来院率、初診後90日の限界利益まで追跡し、施策ごとの限界利益ベースの費用対効果を可視化することで、無駄な広告費を削り医院のキャッシュフローを改善する実践フレームワークを解説します。

問題は判断力ではなく、判断の基準になる「現在地」が数字になっていないこと。→ 経営現状分析について
  • ◆新患数が増えても利益が残らない原因は、Web予約数と実来院数の乖離、再初診の混同、直接変動費を引いた限界利益の未把握にある。
  • ◆厚労省の令和5年調査では初診料算定患者の7割強が再初診であり、レセプト初診数やWeb予約CVだけでCPAを算出すると獲得効果を過大評価する。
  • ◆集患の採算は「初診後90日限界利益(売上-技工・材料費-媒体費)」で評価し、許容CPAを基準に拡大・改善・停止の4判定を月次30分で下す。

新患数が増えても利益が残らない歯科医院に共通する3つの原因

「Web広告やMEOに毎月数十万円投資して新患数は増えているのに、なぜか手元のキャッシュが増えない」という場合は、収益だけでなく費用も確認しましょう。第25回医療経済実態調査報告28頁「歯科診療所(集計2)」の医療法人・前年度欄では、給与費の構成比率は「49.1」%です。分母は新型コロナ関連補助金を除く医業収益と介護収益の合計で、2024年4月から2025年3月末までに終了した事業年度の値です。新患数という「量」だけを追いかけても、収益構造が整っていなければ利益は残りません。

本記事では、新患数が増加しても利益が残らない場合の確認点を、以下の3つに整理します。

  • 予約完了と「実来院」の乖離:Web予約の件数だけを見て、無断キャンセルや直前キャンセルによる「未受診」を考慮せず、獲得コストを過小評価している。
  • 再初診と純新患の混同:初診料算定患者には過去に通院歴のある患者も含まれます。2026年度の歯科診療報酬算定通知・A000(9)〜(11)にも、受診歴のある患者について、条件に応じて「その際の診療は初診として取り扱う」とする規定があります。自院を初めて受診する純新患と再初診を区別せず数えている。
  • 90日以内の変動費負け:技工料や材料費などの直接変動費と集患費用の合計が、対象期間の売上を上回っている。

集患施策を評価する際は、売上や患者数に加え、費用を差し引いた「限界利益」も確認しましょう。資金繰り全体の構造については、売上はあるのに資金繰りが苦しい歯科医院の診断法――損益・返済・設備投資・運転資金を4つの月次数字で分解するも参考にしてください。

媒体別CPAだけでは不十分:予約化率・来院率まで追う新患ファネル

広告の成果が「CPA(顧客獲得単価)=広告費÷予約完了数」で報告される場合は、何をコンバージョンとして数えているか確認が必要です。Google広告ヘルプ:平均コンバージョン単価は、CPAを「コンバージョンの総費用をコンバージョンの総数で割って算出」と説明しています。予約完了や電話タップなど、設定したアクションを区別し、実来院と混同しないようにします。電話タップやWebフォーム送信がそのまま医院の売上になるわけではありません。

また、厚生労働省の歯科医療機関調査・図表2-46「患者数」では、令和5年6月の初診料算定患者数は平均値「97.2」人(当該項目の回答施設数「1756」)、再初診患者数は平均値「71.7」人、中央値「45.0」人(同「1507」)です。同表の再初診は、初診料算定患者のうち「初診料算定以前に受診歴のある」患者を指します。両項目の回答施設数は異なり、この表には再初診の構成比そのものは示されていません。平均値の比から、初診患者全体や各施設に占める再初診の割合を断定することはできません。広告成果は、自院の受診歴と実来院の記録を照合して確認しましょう。

集患の費用対効果を正しく評価するには、以下のステップで進む「新患ファネル」を媒体別に可視化する必要があります。

  1. クリック・問い合わせ:広告表示やMEO経由のWeb遷移・電話発信
  2. 予約完了:Web予約または電話による予約枠の確保
  3. 初診実来院:本記事では、自院の受診歴がなく、初めてカルテを開設して実来院した患者を純新患とします。氏名・生年月日等で既存カルテと照合し、本人にも受診歴を確認します。カルテを再作成した既存患者や重複登録分は除外し、他院からの転院や家族紹介も自院の受診歴の有無で判定します。
  4. 治療完了・継続来院:初診後90日間の通院および定期管理への移行

予約枠が埋まっているにもかかわらずキャンセル率が高いと、チェアタイムの空転が発生し、医院全体の収益性を押し下げる要因になります。チェア稼働のボトルネックについては、予約が取れないのに売上が伸びない歯科医院の診断法――新患・再来・キャンセル・チェア別稼働で予約需給を分解するで詳しく解説しています。

初診後90日売上と限界利益で測る「利益を生む新患」の見極め方

新患1人を獲得するためにかかった費用が妥当であったかどうかは、初診当日の診療報酬だけでは判定できません。本記事では、媒体間比較のための実務上の仮の評価期間を「初診後90日」とします。標準的な治療期間や、すべての診療に適した投資回収期限を示すものではありません。

具体的には、以下の計算式を用いて、本記事の管理指標である「90日限界利益(媒体費控除後)」を媒体別に算出します。固定費控除後の最終利益とは区別します。

初診後90日限界利益(媒体費控除後) = 当該媒体経由の同じ初診月の純新患が、それぞれ初診後90日以内に生んだ売上(保険+自費) - 対応する直接変動費(技工料・歯科材料費・外注費) - 当該患者群に対応する媒体費用

以下は患者1人についての仮定の試算で、点数・価格・原価の相場を示すものではありません。Google広告経由で獲得した患者の来院CPAが15,000円、初診当日の保険診療の合計が2,000点=20,000円、材料費等の変動費が4,000円だったとします。点数の換算は、「一点の単価を十円」とする診療報酬の算定方法に基づきます。初診日時点では「20,000円 - 4,000円 - 15,000円 = +1,000円」です。さらに、この患者に90日以内の自費補綴による追加売上120,000円と、追加の技工料・材料費25,000円が生じたと仮定すると、90日限界利益は「140,000円 - 29,000円 - 15,000円 = +96,000円」となります。

一方、90日売上よりも直接変動費と獲得費用の合計が大きければ、この指標は赤字になります。急患や保険診療という区分だけで採算を断定せず、自院の実績で確認します。

広告・SEO・MEO・紹介を比較する媒体別採算シートの作り方

リスティング広告、SEO、MEO(Googleビジネスプロフィール)、紹介・看板など、複数の集患手段を同一の土俵で比較するためには、計測ツールの仕様を正しく理解し、データ連携ルールを統一する必要があります。

Googleビジネスプロフィール ヘルプ:パフォーマンスとインサイトを確認する(2026年10月9日参照)によると、通話数は「ビジネス プロフィールの通話ボタンがクリックされた回数」、ウェブサイトのクリックはリンクのクリック数、ルートはルート検索をしたユーザー数です。これらは実際の予約や来院数ではありません。さらに、同ヘルプには「パフォーマンス データには、オーガニック検索結果と Google 広告の両方における表示回数、検索情報、ユーザーの行動が含まれます」と明記されています。MEO単独の成果として過大評価しないよう注意が必要です。

各媒体の流入を区別するために、Google Analytics ヘルプ:URL生成ツールで案内されているUTMパラメータ(utm_source, utm_medium, utm_campaign)を用いてWeb予約導線のURLを媒体ごとに発行します。同時に、新患初診時の問診票や予約台帳システムに「媒体コード」を登録し、電子カルテの医業収入データと初診月コホートで院内集計します。この際、個人情報保護法第2条・第18条・第20条・第21条に従い、分析の利用目的を明示し、目的外利用は原則として本人同意を得ます。病歴等は要配慮個人情報であり、同法第20条第2項は、法定の例外を除き「あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない」と定めています。医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版・システム運用編14.2の「付与する権限は必要最小限とすることが重要である」を踏まえ、本記事の運用では突合に院内用IDを使い、対応表を分離してアクセスを制限します。外部広告・解析ツールへ患者識別情報(院内用IDを含む)や診療情報を送信しない設計とし、ID化後も本人と照合できる情報は個人情報として管理します。

集患施策は医療広告ガイドラインの範囲内で行う

Web広告・MEO・ポータルサイトの掲載は、医療法第6条の5と医療広告等ガイドライン(2026年3月30日改正)に沿って行います。患者の主観に基づく治療内容・効果の体験談は、現行ガイドライン第3-1の1(6)で「医療広告としては認められない」とされています。

肯定的な体験談の投稿依頼は有償・無償を問わず誘引性が生じ、医院の影響を受けない自発的な推薦とは区別されます(現行Q&A・Q1-18)。

自由診療の情報で広告可能事項の限定解除を利用するには、患者が自ら求めて入手するウェブサイト等であること、問い合わせ先の明示に加え、通常必要な治療内容・標準的な費用・治療期間と回数、「主なリスク、副作用等」の情報提供が必要です。バナー広告や検索連動型広告自体はこの限定解除の対象にならず、限定解除によって体験談等の禁止が解除されるわけでもありません(現行ガイドライン第3-3)。

数値で決める投資継続・停止・予算配分変更の4判定

媒体ごとの「90日限界利益」と「初診実来院CPA」が可視化されたら、感覚だけでなく、明確な経営基準に照らして投資配分を判定します。ここでは、Google広告ヘルプが説明するROI(費用に対する純利益の割合)とは別に、本記事独自の予算管理指標として「許容初診来院CPA」を設定します。以下の式はGoogleが示す公式の計算式ではありません。

許容初診来院CPA = 初診来院患者1人当たりの90日限界利益(媒体費控除前) × 限界利益に対する媒体費(広告費等)の上限比率

上限比率は、自院の固定費や必要利益を踏まえて設定するもので、投資回収率や業界共通の推奨値ではありません。この許容CPAを参考に、集患施策を以下の4つの対応に整理します。

  • 1. 予算拡大(拡大投資):実来院CPAが許容範囲内で、媒体費控除後の90日限界利益が十分に残る媒体。広告予算を段階的に増額し、受入可能な新患枠の範囲で検証します。
  • 2. 導線改善(部分修正):来院CPAは許容範囲だが、90日売上が伸び悩んでいる媒体。広告可能な範囲で、実際の診療内容に合ったキーワードや説明へ見直します。
  • 3. オペレーション改善(現場指導):Web予約数は多いが、実来院率が低い媒体。受付の電話対応や予約リマインドLINEの送信タイミングを見直します。
  • 4. 停止検討(撤退):実来院CPAが許容値を大幅に超え、媒体費控除後の90日限界利益が継続して赤字の広告グループや外部ポータルサイト。計測漏れや契約条件を確認し、減額や出稿停止を検討します。

月次30分で回す集患投資レビューのKPI運用ルール

集患投資の最適化は、一度シートを作成して終わりではありません。重要なのは、毎月の経営会議で「30分」という限られた時間で数字を確認し、翌月の予算配分を修正するPDCAサイクルを定着させることです。

月次の経営会議では、複雑なWeb解析指標を並べる必要はありません。以下の4つの数字を媒体別に確認します。

  1. 投資額:当月分として集計した広告費・MEO費用・制作管理費
  2. 初診実来院数:当月に来院した純新患の人数(再初診を除外)
  3. 実来院CPA:投資額 ÷ 初診実来院数(許容CPA以内か)
  4. 90日観察を完了したコホートの90日限界利益:対象月の全新患が初診後90日を経過してから、各患者の90日売上から対応する直接変動費と媒体費を控除して合計する。前々月の新患を一律に90日実績として扱わない。

自院の集患戦略やユニット稼働のボトルネックを構造的に診断したい場合は、無料の30分相談を活用して現状の採算シートを整理してみるのも有効な選択肢です。感覚的な集患から「限界利益を残す集患」へとシフトし、健全な財務基盤を確立しましょう。なお、歯科医師やスタッフの評価・昇給設計への還元方法については、歯科医院の昇給原資はどう決める?人件費率だけでなく限界利益・生産性・資金繰りから給与改定を診断するもあわせてご確認ください。

外部資料の参照日:2026年10月9日。

よくある質問

歯科診療は初診時の検査や応急処置だけでなく、その後の初期治療や補綴、自費診療の提案、リコール移行まで複数回の通院を伴うためです。初診日単日では広告費を下回る赤字であっても、90日間の診療で十分な限界利益を回収できるケースが多いため、90日コホートでの集計が最も実態を反映します。
Googleビジネスプロフィールの管理画面上のクリック数や通話タップ数は、実来院数とは一致せずGoogle広告経由も含まれます。そのため、専用のUTMパラメータを付与したWeb予約URLを発行するか、初診問診票および電話受付時に流入経路を確認し、予約管理システムの媒体区分と照合して計測します。
初診後90日限界利益(媒体費用を引く前の粗利)に目標投資回収率(通常20〜30%程度)を乗じて算出します。たとえば90日限界利益が平均50,000円の医院であれば、許容実来院CPAは10,000円〜15,000円が上限の目安となります。

この記事の詳細は Bench Club 限定レポートで

本資料は、歯科医院が提供する主要な保険診療メニューについて、点数・材料費・人件費から実際の利益額を詳細に計算し、一覧化したものである。スケーリングやSPT等の高利益治療から、根治や銀合金インレーなどの低利益・赤字治療まで、治療別の採算性を明示し、保険診療は儲からないという通説を検証。併せて利益を出すための工夫(複数列診療、15分枠設定、材料費削減等)を提示し、経営効率化の実践的ガイドとなっている。

参考資料

  1. 第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告
  2. Google広告ヘルプ:コンバージョン トラッキング データについて
  3. 歯科医療機関調査:令和5年6月の患者数等
  4. Googleビジネスプロフィール ヘルプ:パフォーマンスとインサイトを確認する
  5. Google Analytics ヘルプ:URL生成ツール
  6. Google広告ヘルプ:広告費用対効果の概要
  7. 売上はあるのに資金繰りが苦しい歯科医院の診断法――損益・返済・設備投資・運転資金を4つの月次数字で分解する
  8. 予約が取れないのに売上が伸びない歯科医院の診断法――新患・再来・キャンセル・チェア別稼働で予約需給を分解する
  9. 歯科医院の昇給原資はどう決める?人件費率だけでなく限界利益・生産性・資金繰りから給与改定を診断する
  10. 保険診療の利益を最大化する実践ガイド
    Bench Club で続きを読む →

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