
歯科医師採用の実務ガイド――近年の合格者数推移・報酬設計・見学会運営で勤務医・分院長候補を確保する
歯科医師採用は国試合格者数の絞り込みと大手法人の多店舗展開で難度が上がっています。結論から言えば、勝ち筋は「求人票の情報可視化」「役職別の報酬設計」「見学会・内定後フォローの仕組み化」の3点です。本記事では公的統計をもとに、勤務医・分院長候補を確保するための具体策と育成ロードマップを解説します。
- ◆第119回国試の全体合格率は61.9%、既卒は22年ぶりに30%を割り込み、歯科医師の供給は絞り込まれている
- ◆求人票はキャリアパス・処遇・労働環境・診療内容の4点を数値で可視化し、ミスマッチを防ぐ
- ◆勤務医約746万円・分院長約1,475万円という役職別格差を将来の到達点として提示する
- ◆見学会から内定までをフロー化し、内定後フォローで辞退防止と早期活躍を準備する
- ◆分院長候補には1〜5年の段階的育成ロードマップを示し、経営を学べる環境を採用メッセージにする
歯科医師採用が難しくなっている背景――近年の国試合格者数の推移と採用競争
「歯科衛生士採用はなんとか回せているが、歯科医師の確保は手応えがない」――そう感じる院長が増えています。背景の一つとして、歯科医師国家試験の合格状況の変動があります。第118回歯科医師国家試験(2025年3月発表)では合格者数2,136人・全体合格率70.3%で、全体合格率が70%を超えるのは第106回以来12年ぶりでした。一方、第119回(2026年3月発表)では全体合格率が61.9%に低下し、既卒者は受験者988名のうち合格者275名・合格率27.8%と既卒合格率が3割を割り込みました。ただし単年度の合格率の上下だけで「合格者の絞り込み」と断定することはできず、ここでは近年の合格状況の変動として捉えるのが適切です。
需要側では、歯科診療所の総数に変化が見られます。医療施設動態調査では、歯科診療所数はその後ほぼ横ばいに推移し、令和5年は66,818施設(対前年937施設減)とされています。法人規模別の採用力の差や多店舗展開の影響については公的な集計データが限られるため、本記事では断定を避けます。
就業形態の面では、医師・歯科医師・薬剤師統計から、歯科医師の多くが歯科診療所に従事していることが分かります。勤務医として就業している層は一定数存在しており、選ばれる側の医院になれれば確保の余地はあると考えられます。

求人票設計の4つのポイント――キャリアパス・処遇・労働環境の可視化
歯科医師の採用は「選ばれる側」の発想が出発点になり得ます。勤務医が転職先を選ぶ際には経営理念・職場環境・ワークライフバランスを重視する傾向があるとされ、求人票はその関心に答える情報を可視化する場として活用できます。
具体的には次の4点を、抽象的なキャッチコピーではなく数値・事実で記載することが望まれます。
- キャリアパス:1年目〜分院長候補までの年次別ステップを明示する
- 処遇・昇給:基本給・賞与・インセンティブの算定ルールを開示する
- 労働環境:残業時間・休日数・有給取得率を具体値で示す
- 診療内容:自費診療割合・研修制度・使用機材を提示する
求人票や面接で実態と異なる印象を与えると、入職後のミスマッチが早期退職の一因になり得ます。良い面だけでなく前提条件まで率直に書くことが、結果的に定着につながると考えられます。
報酬体系の作り方――勤務医・分院長候補別の給与・インセンティブ設計
報酬設計は市場相場の把握から始めると整理しやすくなります。賃金水準の参考としては、厚生労働省の賃金構造基本統計調査があります。同調査は主要産業に雇用される労働者を対象とした統計であり、開業医・経営者を含む歯科医師全体の所得とは性質が異なる点に留意が必要です。職種別の数値は同調査の歯科医師の該当表で確認できますが、年収換算は「きまって支給する現金給与額×12か月+年間賞与その他特別給与額」で求める必要があり、本記事では具体額の断定は控えます。
役職・形態別の経営・収益状況については、中央社会保険医療協議会の医療経済実態調査が一次資料となります。最新は第25回(令和7年実施)であり、歯科診療所の損益や給与費の状況などが調査区分に沿って公表されています。求人設計では、こうした公的資料の区分・対象範囲をそのまま参照することが望まれます。
初任給水準も医院ごとに差があります。一部の求人では臨床研修終了直後の歯科医師に比較的高い月収を提示するケースも見られますが、求人市場全体の傾向として断定できる集計は限られます。中小医院が金額だけで競うのは難しいため、固定給は市場水準に揃えつつ、研修費補助や診療裁量といった金額以外の価値で差別化する設計が現実的です。なお、自費診療や院内の業務実績に連動するインセンティブを設ける場合は、賃金規程・就業規則・労働基準法に沿った設計に加え、患者紹介に報酬を連動させる仕組みは医療広告ガイドラインや利益相反・過剰診療防止の観点から慎重な検討が必要です。
見学会・面接フローの運営実務――接客・情報提供の工夫
医院見学は、求職者が働くイメージを具体化する接点になります。SNSやホームページで医院の様子を事前に発信し、見学前から関係を築いておくことで、当日の納得感が高まる可能性があります。見学会から内定までの流れを属人化させず、フロー化しておくことが運営上有効です。

面接の質も判断を左右します。当社が採用支援を行う現場では、面接で「労働条件の明示」「医院の強みの説明」「理念の共有」を統一的に伝える医院ほど、求職者の比較検討で評価されやすいと整理しています(当社支援現場での経験則であり、対象・件数等を統計的に集計したものではありません)。求職者は複数の医院を比較していることが多いため、条件の透明性と将来ビジョンの言語化が一要素となり得ます。
採用の全体設計は歯科衛生士採用とも共通点が多く、面接フローの考え方は歯科衛生士 採用面接 設計の実務ガイドも参考になります。
内定後から入職までのフォロー――辞退防止と早期活躍の準備
内定を出して終わりではありません。複数医院を比較している求職者では、内定後の連絡頻度や情報提供の丁寧さが最終判断に影響する可能性があります。内定から入職までの空白期間を不安が募る時間にしない工夫が要点です。
- 入職初日の流れ・初月の研修スケジュールを事前共有する
- 配属チームのメンバーと顔合わせの機会を設ける
- 使用機材・電子カルテ・マニュアルへの事前アクセスを用意する
- 院長またはメンターが定期的に連絡を入れる
当社の採用支援の現場では、入社後の環境整備が人材の定着に寄与すると整理しています(経験則に基づく整理です)。入職前の準備は、早期活躍の助走にもなります。
分院長候補の育成ロードマップ――段階的キャリア構想の示し方
分院長候補の募集要件として、歯科医師キャリア5年以上を目安にする求人も見られます。求職者に響くのは「いつ・何ができるようになり・どの役職に到達するか」が見えるロードマップです。育成モデルの一例としては、初期に保険診療の習熟と経営の基礎学習を行い、その後に自費治療やマネジメント、分院長候補へ進む段階モデルが参考になります(これは一例であり、業界標準を示すものではありません)。

実際の医院でも、1年目に臨床研修とマニュアル作成参加、3年目に経営数値理解とマーケティング実践、5年目以降にスタッフマネジメントや開業支援へ進むという年次別の実例が公開されています。分院長を目指す歯科医師は、経営・マネジメントを実践的に学べる環境を求める傾向があり、この「学べる仕組み」自体が採用メッセージになり得ます。
分院展開を見据える場合、財務管理の土台づくりも並行課題です。手元資金や採算ラインの見方は歯科医院の財務健全化チェックリストを、自費領域の収益設計はマウスピース矯正の収益設計術も合わせてご確認ください。
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よくある質問
- Q. 中小歯科医院が大手法人と給与で競うのは現実的ですか?
- 固定給だけで競うのは難しいのが実情です。令和7年賃金構造基本統計調査では歯科医師全体の平均年収は約1,062万円ですが、研修終了1年目に月収40万円以上を提示する医院も増えています。中小医院は固定給を市場水準に揃えつつ、自費連動インセンティブ・研修費補助・診療裁量など金額以外の価値で差別化するのが現実的です。
- Q. 見学会で内定率を高めるには何が重要ですか?
- 見学前のSNS・ホームページでの情報発信による関係構築と、当日の情報提供の透明性です。求職者は複数医院を比較しているため、労働条件の明示・医院の強み・理念の共有を統一的に伝えること、そして見学から内定までをフロー化して属人化を防ぐことが効果的です。
- Q. 分院長候補にはどのようなキャリアを示せばよいですか?
- 1年目に臨床基礎、3年目に保険診療習熟と医院運営参画・マーケティング学習、4〜5年目以降で自費治療習得・スタッフマネジメント・経営数値の把握へと進む段階的ロードマップが標準的です。経営やマネジメントを実践的に学べる環境そのものが、分院長を目指す歯科医師への採用メッセージになります。
参考資料
- 第118回歯科医師国家試験の学校別合格者状況(厚生労働省)
- 第119回歯科医師国家試験 合格発表情報(CES歯科医師国家試験予備校)
- 令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(厚生労働省)
- 令和7年賃金構造基本統計調査(e-Stat)
- 歯科医師の平均月収や平均年収を勤務医・開業医別に解説(デンタルハッピー)
- 歯科医師の人材募集を成功に導くポイント(ORTC Online)
- 歯科医師の採用を成功に導く4つの方法(あきばれ歯科経営online)
- 歯科医師のキャリア展望(Apotool&Box)
- 歯科医師も経営を学ぶキャリア設計(いいじま歯科クリニック採用サイト)
- 歯科衛生士の需給と処遇を考える(コンサルプラス)
- 歯科衛生士 採用面接 設計の実務ガイド
- 歯科医院の財務健全化チェックリスト
- マウスピース矯正の収益設計術
- 歯科医院の採用成功率を劇的に向上させる最新戦略! — ARXIA 編集部


