
2026年の歯科診療報酬改定のポイントは?――10改定項目を「届出・算定・工数・収支影響」で整理する診療所向け総覧
2026年(令和8年度)6月施行の歯科診療報酬改定は、物価高騰への対応、ベースアップ評価料の拡充、口腔機能管理や歯周病継続支援治療の再編など、外来と在宅の双面に大きな変化をもたらします。本記事では診療所が押さえるべき主要10項目を「届出の要否・算定要件・DH工数・収支影響」の4軸で整理し、施行までの90日実務ロードマップを提示します。
- ◆令和8年度(2026年度)歯科診療報酬改定は2026年6月1日施行で、歯科本体改定率は2年度平均+0.31%、診療報酬全体では+3.09%となる。
- ◆初診料272点・再診料59点への引上げに加え、歯科外来物価対応料(初診3点・再診等1点、2027年6月以降は6点・2点)が新設される。
- ◆ベースアップ評価料の拡充および歯科技工所ベースアップ支援料(15点)が新設されるが、算定額は全額を賃金改善や委託費増額に充てる義務がある。
- ◆口腔機能管理料は検査有無等に応じた1(90点)・2(50点)の2区分へ再編され、SPTと重症化予防は「歯周病継続支援治療」へと統合される。
- ◆施行までの90日間で、レセコン設定、施設基準の再届出、DHの管理指導フロー整備、院内掲示・Webサイト更新を計画的に進める必要がある。
2026年歯科診療報酬改定の全体像:診療所が押さえるべき10項目
2026年(令和8年度)の診療報酬改定は、2026年6月1日に施行されました。厚生労働省告示第69号には「令和八年六月一日から適用する」と明記されています。診療報酬本体の改定率は2年度平均で+3.09%(うち物価対応分+0.76%、賃上げ分+1.70%)です。なお、厚生労働省の概要資料にある「歯科+0.31%」は、賃上げ・物価対応等とは別枠の各科改定率であり、歯科全体の改定率を意味するものではありません。今回の改定では、基本点数の引き上げに加え、物価高・賃上げへの対応と、機能分化・デジタル化の推進が打ち出されています。
診療所経営の観点からは、初再診料の引き上げや「歯科外来物価対応料」の新設といった点数上の増加がある一方で、要件を満たした届出を行わなければ算定できない評価料や、算定基準の変更・再編への対応が必要な項目が混在しています。近年の歯科医院を取り巻く経営環境については、歯医者の経営が厳しい損益構造の背景でも分析していますが、収入の変化と固定費・人件費の増加を分けて把握することが重要です。
今回の改定において、一般の歯科診療所が押さえるべき主要項目を、令和8年度歯科診療報酬点数表と改定の概要【歯科】に基づき、以下の10点に整理します。
- 歯科初診料・再診料の引き上げ:「歯科初診料 272点」(+5点)、「歯科再診料 59点」(+1点)へ改定。
- 歯科外来物価対応料の新設:物価上昇への対応として初診時3点/再診時等1点を設定。2027年6月以降はそれぞれ6点/2点。
- 歯科外来・在宅ベースアップ評価料(I・II)の見直し:医療従事者の賃金改善を目的とした評価の拡充と対象職種の追加。
- 歯科技工所ベースアップ支援料の新設:外部歯科技工所の賃金改善を支援する1装置15点(2027年6月以降は30点)の評価。
- 口腔機能管理料・小児口腔機能管理料の2区分化:所定の検査の算定や評価項目の該当数等に応じた「管理料1(90点)」「管理料2(50点)」への再編。
- 歯周病継続支援治療への統合:従来の歯周病安定期治療(SPT)と歯周病重症化予防治療を統合し、歯数に応じた点数体系へ再構築。
- 在宅療養支援歯科診療所(歯援診)加算の見直し:歯科訪問診療1に対する加算(歯援診1:100点、歯援診2:50点)の新設。
- 訪問歯科衛生指導料の見直し:単一建物診療患者数に応じた点数の変更(1人:380点、2〜9人:330点、10人以上:260点)。
- 医科連携訪問加算の新設:歯科標榜のない連携医療機関からの依頼等に基づく訪問診療に対する500点の評価。施設基準への適合は必要ですが、当該加算の届出は不要です。
- 医療DX関連加算の再編・CAD/CAM要件緩和:電子的な診療情報連携体制の再評価と、材料(III)を使用する大臼歯CAD/CAM冠の咬合支持要件の撤廃。
10改定項目を「届出・算定要件・DH工数・収支影響」で比較する視点
各改定項目は、それぞれ「届出の要否」「チェアタイムや歯科衛生士(DH)・スタッフの工数」「医院収支に与えるインパクト」が異なります。これらを項目ごとに把握することで、自院がどこから着手すべきかの優先順位を検討できます。
初再診料や物価対応料は、算定対象と既存の届出状況を確認し、レセコン設定に反映させる必要があります。「全患者に自動適用」とは扱わないでください。一方、ベースアップ評価料と歯科技工所ベースアップ支援料は、収入の使途が賃金改善や技工委託費の増額に定められています。収入増をそのまま医院の利益増とみなさず、支出、未充当額への対応や実績確認・報告の事務負担と分けて評価する必要があります。算定対象は歯科点数表の留意事項通知、使途と残余の取扱いは後述の施設基準・疑義解釈で確認してください。
物価対応・賃上げ関連:外来診療の収支に及ぶ影響と届出確認
厚生労働省の公式資料によると、新設された歯科外来物価対応料は「イ 初診時 3点」「ロ 再診時等 1点」です。2027年6月以降はそれぞれ初診時6点、再診時等2点となる段階的な設計です。

歯科初診料(267点→272点)と歯科再診料(58点→59点)の変更を合わせると、改定前に比べ初診1回あたり+8点、再診1回あたり+2点、2027年6月以降はそれぞれ+11点、+3点です。減算等がなく、毎月の算定回数を初診50回・再診1,000回で一定と仮定すると、1点10円で計算した収入差は、2026年6月から月24,000円〔(50回×8点+1,000回×2点)×10円〕、2027年6月以降は月35,500円です。これは費用増や他項目の増減を含まない診療報酬収入の試算であり、利益額ではありません。
一方、賃上げに対応する歯科外来・在宅ベースアップ評価料(I)は、新たに賃上げを行う施設では初診時21点・再診時等4点、所定の継続的賃上げの施設基準に該当する施設では初診時31点・再診時等6点です。いずれも2027年6月以降は引き上げられます。詳細な届出要件や様式は、厚生労働省「ベースアップ評価料等について」で確認してください。施設基準通知では、毎年8月に当年度の「賃金改善中間報告書」と前年度の「賃金改善実績報告書」を作成し、「地方厚生(支)局長に報告すること」とされています。
算定収入の使途について、厚生労働省の疑義解釈は「当該評価料により得られる収入は、全て、対象職員の基本給又は決まって毎月支払われる手当の引上げ」およびそれに伴う賞与、時間外手当、法定福利費等の増加分に用いるとしています。未充当額の管理も必要です。施設基準通知は、ベア等を実施した後、患者数等の変動で収入が賃金改善額を上回り、追加のベア等が困難な場合に限り、賞与等による賃金改善を認めています。疑義解釈(その2・別添2問6)によれば、2026年6月〜2027年5月の収入は原則2027年5月までの賃金改善に充当します。収入額・賃金改善額を見積もったにもかかわらず、患者数等の変動で収入確定後にやむを得ず残余が生じた場合は、実績報告を提出する2027年8月までの賃金改善に充当し、その分も報告できます。これらの通知・疑義解釈では未達時の一律返還までは確認できないため、期限内に充当できない場合の取扱いは管轄厚生局に確認してください。
新設の歯科技工所ベースアップ支援料(1装置15点、2027年6月以降30点)は、委託先の賃金改善の意向を確認し、連携のうえ地方厚生局長等への届出を行う必要があります。施設基準では「当該支援料を全て歯科技工所への委託費の増額に充てること」と規定されています。同通知は実績報告と関係書類の保管も求めているため、算定額と実際の委託費増額を照合し、全額充当を確認できる記録を残してください。また、留意事項通知は「当該保険医療機関内の歯科技工士が補綴物等の製作や修理を行う場合には算定できない」としています。
口腔機能・歯周病・訪問歯科:対象患者数から算定機会を試算する
日常の臨床現場において歯科衛生士(DH)の業務フローに直結するのが、口腔機能管理料の2区分化と歯周病関連点数の統合です。厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】」によると、口腔機能管理料・小児口腔機能管理料ともに区分が見直されました。いずれも、対象となる疾患の診断に加え、歯科疾患管理料等の算定、患者の同意、評価に基づく管理計画の作成と管理の実施等が前提です。
- 口腔機能管理料:口腔機能低下症と診断された患者のうち、所定の咀嚼能力検査、咬合圧検査、口腔粘膜湿潤度検査、舌圧検査、口腔細菌定量検査のいずれかを算定した患者は「口腔機能管理料1 90点」、それに該当しない患者は「口腔機能管理料2 50点」を月1回算定します。検査を行わない患者に一律に50点を算定できるという意味ではありません。
- 小児口腔機能管理料:口腔機能発達不全症の18歳未満の患者について、評価項目3項目以上に該当する場合は「小児口腔機能管理料1 90点」、2項目に該当する場合は「小児口腔機能管理料2 50点」を月1回算定します。
- 歯周病継続支援治療:歯周病安定期治療(SPT)と歯周病重症化予防治療が統合され、「1歯以上10歯未満 170点」「10歯以上20歯未満 200点」「20歯以上 350点」の歯数別体系へ移行しました。
歯周病継続支援治療への一本化では、20歯以上の患者の基本点数は従来のSPTと同じ350点ですが、20歯未満では従来のSPTより低くなります。従来どの治療を算定していたかによっても増減が異なるため、自院のリコール患者の歯数構成と旧算定項目を確認することが重要です。リコール運用の見直しやチェア稼働の分析手法については、予約が取れないのに売上が伸びない歯科医院の診断法も参考にしてください。
訪問歯科衛生指導料は、令和6年度歯科点数表の「362点」「326点」「295点」から、令和8年度歯科点数表の「380点」「330点」「260点」へ変更されました。対応する区分は、それぞれ単一建物診療患者数1人、2〜9人、10人以上です。大人数施設を訪問している診療所では、所定の指導時間等の算定要件を維持しながら、訪問体制と収支影響を確認してください。
医科歯科連携・医療DX:新設・見直し項目の算定フローと運用負荷
今回の改定では、地域包括ケアと医療DXを推進するための連携評価が見直されています。その一つが「医科連携訪問加算(500点)」の新設です。
この加算は、歯科診療を行っていない連携医療機関に入院中で、口腔状態の課題によって医科治療上の課題が生じている患者に対し、依頼に基づいて歯科訪問診療を行った場合が対象です。依頼文書の写しを診療録に添付し、「初回の歯科訪問診療時に1回に限り算定する」とされています。連携先との依頼方法の取り決め、連絡先等の文書提供、院内掲示・原則としてWebサイトへの掲載などの施設基準を満たす必要があります。ただし、2026年4月2日付の訂正事務連絡には「特に地方厚生(支)局長に対して、届出を行う必要はないこと」と明記されています。
医療DX関連では、従来の医療DX推進体制整備加算等が再編され、電子的な診療情報の連携体制が評価されています。マイナ保険証利用率や電子処方箋・電子カルテ等の体制要件は区分によって異なるため、該当区分の施設基準を確認してください。レセコンや電子カルテのシステム改修については、厚生労働省保険局が運用する診療報酬情報提供サービス「令和8年度診療報酬改定」の診療行為マスター等の更新状況を、ベンダーと確認してください。
また技工・補綴分野では、令和6年度の留意事項で材料(III)による第一・第二大臼歯のCAD/CAM冠に課されていた、対側の大臼歯による咬合支持等の条件が削除されました。令和8年度の留意事項は「大臼歯にCAD/CAM冠用材料(Ⅲ)又はCAD/CAM冠用材料(Ⅴ)を使用する場合」としています。材料(V)は従前から大臼歯が対象であり、今回新たに咬合支持要件が撤廃されたものではありません。CAD/CAM冠・インレーの内面処理加算1は、令和6年度の各45点から、令和8年度の各55点へ引き上げられました。適応と所定の内面処理・装着の要件を確認して算定してください。
改定施行前後の実務:届出、電子カルテ、スタッフ教育のチェックリスト
2026年6月1日の施行を基準に、準備と運用の工程を振り返り、未対応項目を点検してください。各種通知や届出書類は厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」で確認できます。6月1日から算定を開始する施設基準の届出は、2026年5月7日から6月1日必着までが受付期間でした。通常の算定開始は、各月末までに受理されたものは翌月から、月の最初の開庁日に受理されたものは当月1日からです。提出日と受理日を区別し、管轄厚生局の案内を確認してください。
- 施行前:2026年4月(現状把握と届出準備):
- 自院の初再診比率、歯周病患者の歯数分布、訪問先ごとの患者数を抽出し、収支影響を試算する。
- 継続算定する施設基準の再届出要件を確認し、地方厚生局への提出書類を揃える。
- 委託先歯科技工所と連絡を取り、支援料算定に向けた賃金改善の意向と連携体制を確認する。
- 施行前:2026年5月(届出、システム改修とスタッフ周知):
- 6月1日からの算定に必要な届出を、上記の受付期間・締切に沿って提出する。
- レセコン・電カルベンダーの改修パッチを適用し、セット入力コード(歯周病継続支援治療、口腔機能管理料など)を再構築する。
- 受付スタッフ向けに「初再診料・物価対応料の窓口負担金変更」の説明用トークスクリプトを作成する。
- DHミーティングを実施し、口腔機能低下症検査の適応判断と記録フォーマットを統一する。
- 院内掲示物および公式ホームページ上の施設基準・医療DX対応情報の記載を更新する。
- 施行後:2026年6〜8月(運用定着と報告業務):
- 施行初月のレセプト請求時に、新設加算の算定漏れや返戻エラーがないか点検する。
- ベースアップ評価料を算定した医院は、8月の中間報告等の提出状況と、翌年度の実績報告に向けたデータ収集フローを確認する。
自院の優先順位を決める:算定件数・工数・増収見込みで行う改定対応診断
限られた人員と時間の中で改定に対応するためには、自院の診療モデルに応じた「選択と集中」が欠かせません。すべての改定項目に一斉に手を付けるのではなく、以下の判断基準で対応順序を検討してください。
まず優先したいのは、「算定対象とシステム設定を確認する項目」です。初再診料の改定と歯科外来物価対応料について、レセコンの更新だけで完了とせず、自院の届出状況や患者ごとの算定要件を確認し、テスト請求と初回請求の点検を行ってください。
次に着手したいのは、「既存患者の口腔機能・歯周病関連の移行」です。すでにSPTや小児定期管理に通院している患者について、診断・検査の必要性・管理計画に応じた移行を確認し、必要な検査や管理、記録の流れを見直してください。自院のKPI管理や経営数値の分析方法については、歯科医院の経営分析でそろえるべき12指標も併せてご参照ください。
最後に、ベースアップ評価料や歯科技工所ベースアップ支援料などの「届出が必要な項目」と、医科連携訪問加算のような「届出は不要だが連携体制の整備が必要な項目」を分けて検討します。必要に応じて社労士、税理士、技工所、地域の医科病院と調整し、算定見込額だけでなく、賃金改善・委託費増額や運用工数を含めて対応方針を判断してください。
2026年改定を単なる点数変更として捉えるのではなく、自院の診療導線と組織体制を見直す契機としてご活用ください。
よくある質問
- Q. 2026年の診療報酬改定はいつから適用されますか?例年通り4月ですか?
- 2026年(令和8年度)の診療報酬改定は、例年の4月1日ではなく「2026年6月1日」に施行されます。薬価改定や準備期間の確保を目的とした見直しであり、準備期間が2か月長くなっていますが、届出スケジュール等には注意が必要です。
- Q. 歯科外来物価対応料は、届出を提出しないと算定できませんか?
- 歯科外来物価対応料(初診時3点、再診時等1点)は、届出を要する施設基準は設定されていないため、地方厚生局への事前の届出は不要です。レセコンや電子カルテのマスター更新・自動算定設定を確認することで、6月1日以降の診療分から算定可能となります。
- Q. 歯周病安定期治療(SPT)を算定していた既存患者は、改定後にどう移行すればよいですか?
- SPTと歯周病重症化予防治療は「歯周病継続支援治療」に統合されます。改定後は患者の残存歯数(1〜9歯: 170点、10〜19歯: 200点、20歯以上: 350点)に応じた区分で算定することになります。診療録の管理計画記載やメンテナンス間隔の要件を確認し、新様式に沿った移行が必要です。
この記事の詳細は Bench Club 限定レポートで
歯科医院のためのベースアップ評価料解説
ベースアップ評価料は令和6年度診療報酬改定で新設された制度で、令和8年度改定により初診点数が21点から段階的に52点まで拡大され、事務職員や40歳未満の歯科医師が新たに対象職員に追加されました。本制度は算定した全収入を対象職員の賃金改善に充当する義務があり、基本給への上乗せではなく「ベースアップ評価料手当」として新設することで、実績報告の集計が容易で原資不足時の調整も可能になります。令和8年度と令和9年度に段階的な賃上げ(医療職3.2%・事務職5.7%)を目指す制度であり、届出の有無がスタッフ定着に影響するため、早期の導入検討が経営課題として重要性を高めています。
Bench Club で続きを読む →参考資料
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】」
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
- 厚生労働省「ベースアップ評価料等について」
- 社会保険診療報酬支払基金「診療報酬情報提供サービス:令和8年度診療報酬改定」
- 歯医者の経営が厳しいのはなぜ?2024年度実績から物価・人件費・技工費を損益構造で分解し改善の優先順位を決める
- 予約が取れないのに売上が伸びない歯科医院の診断法――新患・再来・キャンセル・チェア別稼働で予約需給を分解する
- 歯科医院の経営分析は何から始める?――採用・設備・集患の前にそろえる「現在地」12指標
- 歯科医院のためのベースアップ評価料解説Bench Club 会員限定Bench Club で続きを読む →


