
歯医者の経営が厳しいのはなぜ?2024年度実績から物価・人件費・技工費を損益構造で分解し改善の優先順位を決める
2026年に歯科医院経営が厳しさを増す根本原因は、単なる患者数減少ではなく医業費用(前年比+2.5%)や歯科技工委託費(同+5.9%)を中心とした構造的コスト増にあります。本記事では損益構造の分解、月次診断の5指標、費用高騰への実務対策、資金繰り改善の90日アクションプランまでを網羅して解説します。
- ◆2024年度の個人立歯科診療所データでは、医業費用(+2.5%)や技工委託費(+5.9%)の伸びが収益増(+2.4%)を上回り、利益が出にくい損益構造にある
- ◆個人立の給与費には開設者報酬が含まれないため、統計上の損益差額から借入元金返済や生活費を引いた実質キャッシュフローの把握が必須である
- ◆経営改善の優先順位は「①中断防止・リコール維持」「②診療単価・自費提案の標準化」「③新規集患」の順で取り組むのが鉄則である
- ◆技工士減少や求人倍率高騰を踏まえ、単なる単価交渉や給与抑制ではなく再製作率低減やタスクシフトによる生産性向上を図るべきである
- ◆資金難に陥った場合は延滞前に公庫や金融機関へリスケ・支援を相談し、90日間のロードマップで診断・実行・検証を進めることが重要である
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2024年度の実績から経営を考える:医業・介護費用2.5%増・技工委託費5.9%増を読む
歯科医院の現場では「以前と同じように患者を診ているのに、手元に残る資金が減っている」「材料費や技工代の請求書を見るたびに負担感が増している」という悩みがあります。この背景を考えるには、診療報酬と現場コストの関係を確認する必要があります。
中医協が実施・公表した第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告を基に、日本歯科医師会が作成した「第25回医療経済実態調査報告結果(個人立歯科診療所)について」(2025年12月3日、厚生労働省掲載PDF15~18頁)では、青色申告者〔省略形式〕を含む集計2の個人立歯科診療所396施設を分析しています。2024年度の医業収益(コロナ補助金を含む)は前年度比2.4%増、医業・介護費用は2.5%増でした。分析資料16頁には、増減率(%)として「医業収益* 2.4」「医業・介護費用 2.5」、損益率として「R5・R6とも 27.6%」と記載されており、この集計では損益率は横ばいでした。
ただし、調査報告書612頁の同じ396施設の補助金を除く損益差額(原表:前々年〔度〕「13,767」、前年〔度〕「14,087」、単位:千円)は、2023年度の1,376.7万円から2024年度の1,408.7万円へ32.0万円増加しています。掲載値から算出した増加率は約2.3%であり、利益率が横ばいでも、利益額まで増えていないわけではありません。

特に注目すべきは費用の内訳です。同分析資料によると、給与費は前年度比3.3%増、医薬品費は3.9%増、そして歯科技工委託費は5.9%増(委託費全体で5.4%増)と、費用総額の伸び率を上回っています(原表の増減率〔%〕:「給与費 3.3」「医薬品費 3.9」「委託費 5.4」「うち技工委託費 5.9」)。技工委託費を検討する際には、供給体制の変化も併せて確認する必要があります。厚生労働省の令和6年衛生行政報告例7頁・表4によれば、2024年末時点の就業歯科技工士数は「31,733人」で、前回の2022年末(令和4年末)比「3.7%」減、歯科技工所数も「20,278か所」で同「2.7%」減でした。同分野は、「隔年(1年おき)の報告」に基づく集計です。ただし、この統計だけで技工委託費上昇の原因を特定することはできません。
なお、競合過多の象徴として語られがちな歯科医院数ですが、厚生労働省の令和6年医療施設調査(結果の概要)によると、2024年10月1日時点の活動中歯科診療所数は全国で66,378施設となり、前年比440施設(0.7%)減少しています。「歯科医院が増え続けているから厳しい」という単純な仮説ではなく、費用高騰、採用難、地域の人口動態を個別に分解して捉えましょう。
利益が出ない歯科医院の損益構造:売上・変動費・人件費・固定費・返済を分解する
歯科医院経営において「利益が出ない」と考える際は、決算書の損益差額と手元資金の動きを区別する必要があります。本記事で参照する集計の対応関係は次のとおりです。
個人立歯科診療所の集計区分施設数(原表)本記事で用いる数値集計2・青色申告者〔省略形式〕を含む「396」(報告書612頁)前節の費目別増減率・損益率・損益差額集計2・青色申告者〔省略形式〕を含まない「213」(報告書28頁)以下の収益・費用・損益差額と次節の費用構成比両者は「集計1と集計2」の違いではなく、いずれも集計2です。青色申告者〔省略形式〕を含むか否かで対象施設が異なるため、増減率や構成比を同一集団の数値として単純比較しないでください。
中医協の第25回医療経済実態調査報告の個人立歯科診療所(青色申告者〔省略形式〕を含まない集計2、n=213)では、2024年度の1施設当たり医業収益は5,218.5万円、介護収益は26.2万円で、両者の合計は5,244.7万円(掲載値の合算)です。医業・介護費用は3,682.4万円、損益差額は1,562.2万円と報告されています(報告書28頁の原表:医業収益「52,185」、介護収益「262」、医業・介護費用「36,824」、損益差額「15,622」、単位:千円)。掲載値の差引は1,562.3万円となり、報告された損益差額と0.1万円異なりますが、厚生労働省の利用上の注意には、四捨五入により合計と内訳が合致しない場合があると明記されています。同注意事項のとおり、個人立診療所の給与費には、開設者本人の院長報酬に相当する部分が含まれていません。
つまり、損益差額1,562.2万円をそのまま院長の手残りとは考えられません。院長自身の生活費や税金、借入金の元金返済、将来の設備更新資金を見込む必要があります。日本政策金融公庫の創業計画Q&Aでも、減価償却費と当期利益を基に返済財源を確認し、元金返済や個人企業の家計費を差し引く考え方が示されています。損益計算書上で黒字でも、返済などの資金支出が重ければ、資金収支はマイナスになり得ます。
損益構造を把握するため、収支を次の要素に分解して管理します。
- 売上(保険診療・自費診療):診療量と診療単価に分け、チェア稼働率や時間当たり売上を確認する
- 変動費(材料費・技工費):診療量に応じて増減する費用。技工費は外注単価と再製作率に影響される
- 人件費(衛生士・助手・受付給与):主要な固定費項目。給与水準だけでなく配置効率が問われる
- 固定費(家賃・リース料など):売上の多寡に関わらず発生する維持費用。水道光熱費や広告宣伝費は変動する部分も分けて管理する
- 返済に伴う資金支出(借入金元金返済・利息):利息は費用となる一方、元金返済はP/Lの費用にはならない資金流出として区別する。
自院の投資余力や限界利益を精緻に把握したい場合は、歯科医院の損益分岐点を月商だけで見ない|チェア時間・人時・保険自費別限界利益で投資余力を診断の手法を参考に、チェア1台あたりの固定費回収ラインを算出することをおすすめします。
まず確認したい月次診断:費用構成比と自院の推移から赤字要因を点検する
経営改善の第一歩は、決算期末を待たずに毎月「どこで利益が削られているか」を定点観測することです。
前述の第25回医療経済実態調査(集計2、青色申告者〔省略形式〕を含まない個人立歯科診療所、n=213)の2024年度実績では、給与費の構成比は29.6%、委託費は9.1%(うち歯科技工委託費は8.3%)、歯科材料費は6.6%です(報告書28頁の各構成比率〔%〕欄:「29.6」「9.1」「8.3」「6.6」)。分母はコロナ補助金を除いた医業収益と介護収益の合計で、給与費には院長報酬が含まれません。この29.6%は調査対象施設の平均値に基づく参考線であり、適正範囲や危険水準を示す基準ではありません。30%前後という値だけで人員過剰とは判断せず、自院の月次推移と売上、配置、チェア稼働率を併せて点検してください。
より詳細な財務指標の診断や年商規模に応じた比較を行いたい方は、利益が出る歯科医院の特徴は?年商帯別に自院で作る人件費率・自費率・チェア生産性の月次ベンチマークも合わせて点検してください。
売上不足への改善策:患者数・自費率・再来院率を優先順位で見直す
売上を向上させようとする際、「新規患者の獲得(Web広告やチラシ)」だけに注目していないでしょうか。新規獲得にはコストと労力がかかります。改善策の優先順位として、まず「①再来院率(リコール維持・中断防止)」「②診療単価・自費率(説明プロセスの標準化)」「③新患獲得」の順で、自院の課題を点検することを提案します。
1. 再来院率の改善:通院中断を防ぎメンテナンス定着を図る
治療途中の通院中断については、自院の中断件数と理由を確認します。初診時の丁寧な治療計画説明、次回来院理由の言語化、予約前日のリマインド通知を徹底し、治療終了後の定期メンテナンス移行率は自院の実績を基に改善目標を設定してください。
2. 自費率と診療単価の見直し:価値訴求の仕組み化
自費率向上は、単に高額な補綴物やインプラントを無理に勧めることではありません。患者の主訴と背景にある潜在ニーズを丁寧にカウンセリングし、選択肢として自費治療を提示するプロセスの標準化です。院長1人の感覚的な説明に依存せず、トリートメントコーディネーター(TC)の活用や説明ツールの導入を検討し、説明のばらつきを減らすことを目指します。
3. 新患集患の効率化
土台となる受入体制とリコール定着を点検したうえで、新規集患への投資を検討します。自院の診療圏における競合状況やホームページの導線を客観的に整理し、強みに合致した患者層へアプローチする設計を検討します。医院の現状把握については、歯科医院の経営分析は何から始める?――採用・設備・集患の前にそろえる「現在地」12指標も参考にしてください。
原価・人件費・技工費上昇への対策:値上げだけに頼らない改善方法
物価と賃金の上昇局面において、「自費料金の一律引き上げ」だけで対応しようとすると、地域住民の離反を招くリスクがあります。原価・人件費・技工費の上昇に対しては、料金の見直しと併せて、オペレーションの無駄も点検します。
技工委託費へのアプローチ:再製作率の低減と関係構築
前述の日歯の分析で、2024年度の技工委託費は前年度比5.9%増でした。 外注単価の引き下げ交渉だけでなく、まず「再製作(やり直し)率の低減」を検討します。形成や印象採得の精度管理を徹底し、IOS(口腔内スキャナー)を活用する場合も、技工所側の作業工数や納期への効果を確認してください。技工所とのパートナーシップを深め、お互いのロスを削る関係性を築くことが長期的なコスト抑制に向けた取り組みとなります。
人件費対策:採用難を前提とした業務分担と生産性向上
厚生労働省の職業情報提供サイトjob tag(歯科衛生士)によると、2025年度のハローワーク求人統計における有効求人倍率は全国で2.78倍です(原表「有効求人倍率」「令和7年度」「全国」「2.78」)。採用計画は地域の求人動向も踏まえて検討する必要があります。安易な給与抑制は既存スタッフの離職を招き、さらなる採用コストの流出につながるおそれがあります。
人件費対策では、給与水準だけでなく「スタッフの稼働時間当たり生産性」にも着目します。歯科衛生士がスケーリングやTBIなどの本来業務に専念できるよう、器具洗浄の自動化や受付・清掃業務へのクラーク・クリーンスタッフ配置などのタスクシフトを検討します。
材料費・消耗品の適正化:まとめ発注と定数管理
材料費の削減では、棚卸しを定期化し、院内の「死蔵在庫」を可視化します。各チェッカーや保管庫ごとの定数管理を徹底し、複数の歯科材料ディーラーや通販プラットフォームの価格を定期比較することで、購入単価の最適化を図ります。
返済負担と資金繰りが苦しい場合:税理士・金融機関・経営支援への相談順
キャッシュフローが著しく悪化し、手元資金で今後の支払いを賄えなくなる見込みの場合、売上改善の施策が成果を出す前に資金ショートを起こす恐れがあります。資金繰りに危機を感じたときは、以下の相談先を参考に、早めに相談してください。
- 顧問税理士への相談(直近資金繰り表の作成):例えば向こう6ヶ月を目安に、支払予定に応じた期間の現預金推移を月次で可視化し、資金不足が見込まれる時期を確認します。
- 取引金融機関への早期相談(リスケジュール等の検討):返済が滞る前に、返済猶予(リスケジュール)や据置期間の設定、追加融資の相談を行います。公的なセーフティネット融資の活用も含め、日本政策金融公庫の各種相談窓口などを確認し、早めに相談してください。
- 外部の専門経営支援・PMI支援の活用:資金の手当てと並行して、構造的な赤字要因を止めるための経営再建計画を策定します。診療オペレーション、アポイント設計、コスト構造を見直すため、外部支援の活用を検討します。
歯科医院経営を立て直す90日アクションプラン:診断から実行・検証まで
ここでは、3ヶ月(90日)を目安に焦点を絞った改善サイクルの一例を示します。実施期間や順序は、自院の資金繰りや課題に応じて調整してください。

第1フェーズ(1〜30日目):現状診断と止血
最初の30日間は、過去1年分の決算書・レセプトデータ・日計表を洗い出し、自院のボトルネックを特定します。材料費・技工費の明細をチェックし、過剰な発注や再製作の頻度を調査します。同時に、顧問税理士とともに資金繰り表を作成し、資金流出を抑える対応策を検討します。
第2フェーズ(31〜60日目):院内オペレーションの再構築
特定された課題に基づき、現場のオペレーションを変更します。アポイント帳の予約枠設計を見直し、衛生士のメンテナンス枠と院長の治療枠の稼働重複を解消します。技工所との連携プロトコルを見直し、印象精度のチェック体制を導入して再製作率の低減に着手します。
第3フェーズ(61〜90日目):効果測定と改善サイクルの定着
施策導入から1ヶ月経過した数値(キャンセル率、リコール率、自費成約率、チェア時間生産性)をレビューします。改善が見られた施策はマニュアル化して院内の標準ルールとし、毎月1回スタッフとともに数値を振り返る「月次経営会議」を定着させます。数字に基づいて施策を振り返り、自院の状況に合わせて改善を続けましょう。
よくある質問
- Q. 個人立の歯科医院で損益差額が1,000万円以上あっても手元にお金が残らないのはなぜですか?
- 個人立診療所の損益計算書では、院長自身の報酬や生活費、および借入金の元金返済が費用として計上されていません。帳簿上の利益(損益差額)から多額の借入返済や税金が差し引かれるため、実質的な手残りキャッシュが大幅に減少します。
- Q. 歯科技工費が年々上がっていますが、外注単価を下げる交渉をしてもよいでしょうか?
- 現在、全国の歯科技工士数・技工所数は減少傾向にあり、一方的な値下げ要求は受託拒否や品質低下を招くリスクがあります。単価交渉よりも、印象精度の向上やデジタル化による再製作(やり直し)率の削減を優先し、双方のロスを減らす関係構築が推奨されます。
- Q. 歯科医院の売上改善は、なぜ新患集客よりもリコール率や中断防止を先に行うべきなのですか?
- 新規患者の獲得には広告費や多くの労力が必要ですが、治療中断の防止やメンテナンスへの移行は院内のオペレーション改善ですぐに着手でき、獲得コストも極めて低いためです。受け皿が整っていない状態で新患を増やしても離脱が進み、費用対効果が悪化します。
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歯科医院の売上を128%アップさせた経営支援の秘密:現状分析が導く成功への道筋
多くの歯科医院が経営課題に直面する中、徹底した現状分析こそが売上大幅増の鍵となります。実例として、神奈川県の歯科医院は決算書やレセプト情報などのデータを3ヶ月かけて分析し、SWOT分析により院長の治療技術と衛生士体制を活かした「自費単価アップ戦略」に絞り込むことで、売上を8,552万円から1億1,000万円へ128%増加させました。人事・集患・経営戦略の課題は経営戦略の不備が根本原因で、この根本を解消することで連鎖的に解決可能です。さらに、スマートフォン対応とSEO対策によるホームページリニューアルと月額4万円のリスティング広告を組み合わせることで、流入数を4倍以上に増やし、新規患者獲得と高い費用対効果を実現しています。あなたの医院に最適なオーダーメイド戦略を発見したいなら、Bench Clubで成功事例の詳細な実装方法を学んでください。
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- 第25回医療経済実態調査報告結果(個人立歯科診療所)について
- 第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告
- 令和6年 衛生行政報告例:就業歯科衛生士・歯科技工士及び歯科技工所
- 令和6年医療施設調査:結果の概要
- 歯科衛生士 - 職業詳細(job tag)
- 中小・小規模企業の方(日本政策金融公庫)
- 歯科医院の損益分岐点を月商だけで見ない|チェア時間・人時・保険自費別限界利益で投資余力を診断
- 利益が出る歯科医院の特徴は?年商帯別に自院で作る人件費率・自費率・チェア生産性の月次ベンチマーク
- 歯科医院の経営分析は何から始める?――採用・設備・集患の前にそろえる「現在地」12指標
- 歯科医院の売上を128%アップさせた経営支援の秘密:現状分析が導く成功への道筋Bench Club 会員限定Bench Club で続きを読む →


