
口腔機能実地指導料は誰が何を記録する?――歯科医師の指示・歯科衛生士の実地指導・研修証憑を整理する算定実務
令和8年度改定で新設された「口腔機能実地指導料(46点)」は、算定要件や施設基準を満たすだけでなく、歯科医師の指示、歯科衛生士の実地指導、患者交付文書、研修証憑をカルテ上で整合させることが不可欠です。本記事では、返戻や個別指導での指摘を防ぐ記録の要点と院内チェック体制を具体的に解説します。
- ◆口腔機能実地指導料(46点)は、研修を修了した歯科衛生士が主治医の指示を受けて指導した場合に月1回算定できる
- ◆算定には「主治医の具体的指示」「実地指導と患者交付文書」「主治医への報告・業務記録」の時系列整合が不可欠
- ◆患者交付文書は初回および変更時等のほか、少なくとも6月に1回は書面提供し、カルテへの写し添付が義務付けられている
- ◆施設基準の様式17の4に対応するため、研修修了証の写しや個人別受講台帳を医院で確実に保管・管理する体制が必要
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令和8年度改定で新設された「口腔機能実地指導料(B001-2-2)」は、令和8年(2026年)3月5日公布の告示第69号と同日発出の留意事項通知(保医発0305第6号)に基づき、同年6月1日から適用されています。所定の要件を満たした場合に46点を月1回算定する項目です(厚生労働省「歯科診療報酬点数表」)。算定実務では、「歯科衛生実地指導料との文書の兼ね合いはどうするのか」「カルテや業務記録に何を残すのか」を確認します。
実務では、「歯科医師の指示」「歯科衛生士による実地指導と患者交付文書」を患者単位で記録し、「研修受講証憑」は施設基準に係る保管資料として区別して管理します。研修証憑まで患者ごとのカルテに添付する運用を必須とするものではありません。本記事では、院長およびチーフスタッフが月末点検や厚生局の適時調査・個別指導に備えられるよう、記録の実務手順を整理します。なお、算定要件や届出手続きの個別の取扱いは、管轄の地方厚生局・歯科医師会等に確認してください。
口腔機能実地指導料の算定要件:対象患者・実施者・研修要件を整理
令和8年厚生労働省告示第69号・別表第二「歯科診療報酬点数表」17ページには、「B001-2―2 口腔機能実地指導料 46点」「当該指導内容に係る情報を文書により提供した場合に、月1回に限り算定する。」と明記されています(ルビ・改行を省略)。同項の注は「地方厚生局長等に届け出た保険医療機関」を対象としており、算定には施設基準への適合と届出が必要です。
同告示で示されている対象患者は、以下のいずれかに該当する患者です。
- 口腔機能の発達不全を有する患者(口腔機能発達不全症)
- 口腔機能の低下を来している患者(口腔機能低下症)
点数表では、「口腔機能発達不全症及び口腔機能低下症の実地指導に係る研修を受講した歯科衛生士」が、主治の歯科医師の指示を受けて指導を行うこととされています。研修受講要件には後述する経過措置があります。また、厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その2)」歯科問5では、両疾患について異なる研修をそれぞれ受講した場合も該当し、届出時には様式17の4にそれぞれの研修を記載するとされています。
また、点数改定の全体動向については2026年の歯科診療報酬改定のポイント総覧でも詳しく整理していますが、新設項目を導入する際は、届出要件と算定基準をそれぞれ確認してください。
患者単位でつなぐ算定フロー:歯科医師の診断・指示から指導実施まで
口腔機能実地指導料の算定プロセスでは、「歯科医師の指示を受けて実地指導を行ったか」を確認します。厚生労働省「歯科診療報酬点数表に関する事項」B001-2-2(1)・(4)では、主治の歯科医師の指示を受けて指導を行うことに加え、歯科医師が療養上必要な指示を十分に行い、その指示内容等の要点を診療録に記載することが定められています。
日々の診療現場における標準的な算定フローは、以下の4ステップで循環させます。

この流れにおいて、事前の指示がないまま歯科衛生士が指導し、後から歯科医師の承認だけで補う運用は避けてください。主治の歯科医師の指示を受けてから実地指導を行うことが算定の前提です。
歯科衛生士が行う実地指導:内容・時間・説明事項の記録ポイント
歯科衛生実地指導料1・2には「15分以上」の時間要件がありますが、口腔機能実地指導料には、一律の指導時間は明記されていません(留意事項通知・B001-2、B001-2-2)。ただし、時間要件がないことと、実地指導を省略できることは別です。実際に行った指導内容を記録してください。
以下は、歯科衛生士が院内で記録・共有する項目の例です。すべてが一律の必須記載項目という意味ではありません。
- 口腔機能の現状評価:咀嚼、嚥下、発音、舌圧、口唇閉鎖力などの状態と課題
- 個別指導プログラム:家庭で実施する筋機能訓練(MFT)、嚥下体操、食行動指導の内容
- 患者・家族の理解度と意欲:指導内容に対する受容状況や実践状況のモニタリング結果
患者交付文書については、留意事項通知・B001-2-2(2)が、歯科衛生実地指導料に規定する説明・指導と併せて行った場合、同指導料の文書に「併せて記載しても差し支えない」としています。ただし、文書の併記が認められることだけを根拠に、同日・同月の併算定が無条件に可能とは判断せず、各点数の対象・時間・回数などの算定要件と制限を個別に確認してください。
診療録・交付文書等の記載項目:月末点検で確認する7項目
月末のレセプト点検では、診療録・患者交付文書・歯科衛生士の業務記録を照合します。留意事項通知・B001-2-2(2)〜(5)に沿った確認項目は、以下のとおりです。
- 歯科医師が歯科衛生士に行った指示内容等の要点が、診療録に記載されているか。
- 患者交付文書に、実施した指導等の内容が記載されているか。
- 患者交付文書に、保険医療機関名が記載されているか。
- 患者交付文書に、主治の歯科医師および指導した歯科衛生士の氏名が記載されているか。
- 歯科衛生士が、主治の歯科医師に指導内容を報告しているか。
- 歯科衛生士が、業務に関する記録を作成しているか。
- 歯科衛生士から提出された患者交付文書の写しを、主治の歯科医師が診療録に添付しているか。
特に注意すべき点は、患者への文書提供頻度です。同通知(3)は初回時の情報提供に加え、指導内容の変更時や改善が認められない場合等に必要に応じて提供し、「6月に1回以上は当該指導の内容を文書により提供する」としています。初回および必要時、少なくとも6月に1回は文書を提供し、その写しを診療録に添付してください。
研修修了証・施設基準の管理方法:個人別台帳と証憑ファイルの作り方
口腔機能実地指導料の届出について、施設基準通知の訂正資料・第13の4には、「口腔機能実地指導料の施設基準に係る届出は、別添2の様式17の4を用いること」と明記されています。また、関東信越厚生局の「様式17の4:口腔機能実地指導料の施設基準に係る届出書添付書類」には、「研修の受講を確認できるものを保管すること。」と規定されています。保管資料、様式への記入事項、任意の院内管理を区別して整理しましょう。
- 研修受講を確認できる資料:要件を満たす研修の修了証等、受講を確認できる資料を保管します。書類を「修了証の原本または写し」に限定する規定ではありません。
- 研修受講者の情報:歯科衛生士名、講習名(テーマ)、受講年月日、主催者を様式に記載します。これらを個人別台帳で一覧管理する方法は、任意の院内運用です。
- 指導時間・設備:施設基準通知・第13の4に従い、実地指導を行う時間を定め、その時間の歯科用ユニットを確保します。様式にはユニット保有数を記載しますが、複数台の設置自体を一律必須とするものではありません。
- 処遇改善の取組状況:当該指導を行う歯科衛生士の処遇改善に係る取組が必要です。手当・福利厚生、勤務環境改善等について、様式の該当欄に記入します。
上記の通知・様式には、設備図面や処遇改善の独立した証憑書類の作成・常時保管、これらの患者ごとのカルテ添付を求める明文はありません。任意の補足資料と、明記された研修受講確認資料の保管を混同しないようにしてください。
厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」歯科問8は、「令和9年5月診療分までに関する施設基準の届出に限っては」、同月までの研修受講予定を受講歴の代わりに記載できるとしています。単に届出日が令和9年5月31日以前ならよい、という意味ではありません。継続算定については、「令和9年6月診療分以降も引き続き算定する場合は、当該研修の受講歴を記載した上、再度、施設基準に係る届出を行う必要がある」としています。なお、受講を申し込んだものの受講が認められなかった場合や受講を中断する場合は、遅延なく届出を辞退するとされています。
役割分担表の実例:歯科医師・歯科衛生士・受付事務のチェック体制
算定漏れや記録不備を防ぐため、職種間の引き継ぎや確認プロセスを明確にしておきましょう。
医院経営の指標管理や業務プロセスの可視化については、経営現在地を1枚で共有するKPIダッシュボード設計の考え方が現場運用でも役立ちます。以下は、通知に定められた記録・報告に院内の確認作業を組み合わせた、3職種の業務分担例です。
- 歯科医師:口腔機能評価の診断、療養上必要な指導方針の策定、カルテへの具体的指示記載、歯科衛生士からの指導報告の確認とカルテ承認。
- 歯科衛生士:研修受講証憑の提出、指示に基づく実地指導、患者への指導文書交付、患者別業務記録の起票、指導後速やかな主治医への口頭またはシステム経由での報告。
- 受付・レセプト事務:予約枠と指導対象患者の照合、カルテ内の歯科医師指示・交付文書添付の有無確認、算定回数(月1回制限)のチェック、月末返戻リスクのスクリーニング。
退職・異動時の引継ぎ:資格確認・患者記録・再教育の手順
担当歯科衛生士の退職・休業・異動時には、後任の配置と研修受講状況を確認します。施設基準は研修受講歯科衛生士の配置を求めていますが、疑義解釈その1・歯科問8には、令和9年5月診療分までの受講予定による届出の取扱いがあります。したがって、研修修了者が離れた時点で必ず算定中断になるとは一律にいえません。後任の配置・受講予定、経過措置の適用および他の施設基準の充足を確認し、算定継続や届出手続きの扱いを管轄厚生局に確認してください。
こうしたリスクに備える院内運用として、平常時から「研修受講者を複数名確保する計画」と「引継ぎチェックリスト」を整備しておくと役立ちます。
- 資格・修了状況の早期棚卸し:退職・休業等が分かった時点で、在籍スタッフの中で要件を満たす研修受講者が残るかを確認し、不足する場合は早期に研修受講を計画する。
- 患者別指導記録の標準化:担当衛生士の個人ノートではなく、電子カルテや専用テンプレート上で「直近の訓練達成度」「次回のアプローチ方針」を誰もが閲覧できる状態にしておく。
- 届出変更の要否確認:様式17の4に記載している歯科衛生士が退職し、別の研修修了者へ交代する場合は、必要に応じて厚生局へ変更届等の手続き要否を確認する。
よくある質問
- Q. 歯科衛生実地指導料と同日に算定することはできますか?
- 同日に併せて算定可能です。その際、患者に提供する文書は歯科衛生実地指導料の文書とまとめて一体的に作成・交付することができます。
- Q. 口腔機能実地指導料には「15分以上」といった指導時間の規定はありますか?
- 歯科衛生実地指導料のような15分以上の時間要件は明記されていません。ただし、実質的な機能指導と患者への説明を適切に行い、その内容を記録に残す必要があります。
- Q. 歯科衛生士の研修はオンライン受講でも認められますか?
- 原則は対面研修ですが、出席確認、所定時間の確保、質疑応答、理解度テスト等が確実に実施されるオンライン研修であれば、施設基準の要件を満たすものとして認められます。
- Q. 研修をまだ受けていない歯科衛生士しかいない場合、算定は一切できませんか?
- 令和9年5月31日までの診療分については、所定の研修を期間内に受講予定である旨を様式17の4に記載して届け出る経過措置があります。ただし、令和9年6月以降も算定を続けるには受講履歴を記載した再届出が必要です。
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- 令和8年度診療報酬改定:歯科診療報酬点数表
- 歯科診療報酬点数表に関する事項(令和8年度改定後の留意事項)
- 様式17の4:口腔機能実地指導料の施設基準に係る届出書添付書類
- 令和8年度診療報酬改定に関する疑義解釈資料(歯科)
- 令和8年度診療報酬改定に関する疑義解釈資料(その2)
- 2026年の歯科診療報酬改定のポイントは?――10改定項目を「届出・算定・工数・収支影響」で整理する診療所向け総覧
- 税理士・Web会社・採用支援の提案が噛み合わない理由――歯科医院の「経営現在地」を1枚で共有するKPIダッシュボード
- 令和8年度歯科診療報酬改定 ポイント解説Bench Club 会員限定Bench Club で続きを読む →


